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工事当日は、朝から曇りでおまけに寒かった。工事開始の予定は9時からで、事前に電話が来るはずなので、工事前最後の準備をする。ONU設置予定の洋室で、片付けをしたり、PCの乗ったラックを手前に引き出して、モジュラー近辺を空けようとするが、ケーブルがゴチャゴチャしててこずっていた。 やっと片付いたと思ったら、もう8時45分くらいになっていた。まだ連絡は来ない。現場調査のときも連絡なしに来てしまったので、慌てる。 とにかく、平日にはまず会えない管理人さんを捕まえて、MDFやIDFのカギを開けてもらうことを言っておかないと始まらない。もうすでに工事に来ているかもしれない、と思ってカメラを持って下に下りた。管理人さんにカギのお願いをしていたら、ちょうど協和エクシオのバケット車が1台到着した。前後に表示板とコーンを立てている。いよいよ始まりだ。
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Fig.1-1
バケット車1台目到着
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程なく担当者が2人、入ってきた。「GXKさんですか?」「今日はよろしくお願いします」と挨拶して、写真を撮ることを断ってから、工事の手順を聞く。中の配線(PDSSから部屋まで)の担当と外の配線(引き込み口からPDSSまで)は担当が別で、外の方は後から来るそうだ。しかも、中の方は、IDFから部屋へ、IDFからMDFの方へと引いていくそうだ。これは意外だった。てっきり外から順に部屋のほうへと引いていくものだと思っていた。ただ、他でも同じかどうかは分からない。
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まず、うちの階のIDFから、部屋まで通線する。一人の担当者が、IDFの前でケーブルを必要と思われる長さ分(部屋からPDSS設置予定の2階のIDFまで)だけ繰り出しておき、現調の時に通しておいた紐に結び付ける。別の担当者が住戸側からその紐を引っ張り、横系配管にどんどん通してゆく。屋内用の光ケーブルは、肌色のものだった。抗張力線が入っているためか、しなやか、というよりはバネのような弾力の感じられるケーブルだ。 途中でほとんどつかえることもなく、2〜3分でダイニングのコンセントに到着である。まだ繋がってはいないが、遂に光ファイバが部屋までやってきた。 感激している暇もなく、そこからさらにPCのある洋室に通してゆく。これも現調の時と同様、特に引っかかることもなく、この前取り付けておいた引出し口から出てきた。作業の要領が良いのはもちろんだが、本当にアッという間である。これで横系配線は終わりだ。
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Fig.1-2
IDF前で室内用ケーブルを繰り出す
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Fig.1-3
台所のモジュラーに通線した瞬間
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Fig.1-4
洋室のモジュラーに通線した瞬間
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少し気になったのだが、多分配管の入り口で擦れたものだろうが、ケーブルの被覆が所々、鉋屑(かんなくず)のように巻いてわずかに削れているようになっていた。中身が光ファイバだけに、余り気持ちのいいものではない。担当者たちは余り気にしていない様子だったが…。 また、今になって思うのだが、この引出し口をあらかじめ付けて紐を出しておいて良かった。大した時間ではないかもしれないが、これを付けておかなかったら、コンセント自体の中をあけたり、フェースプレートに穴をあけたりで、時間がかかったと思う。
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さて次は、ONUと屋内ファイバの接続である。ONU本体はコネクタでファイバと繋がるようになっているのだが、そのコネクタには直接屋内用ファイバが接続されるわけではない。すでに片側にコネクタの付いた短いファイバ(もう片方は切断したままの状態)と、屋内用のケーブルの芯線をつないで、ONUにコネクタを差し込むようになっている。 短ケーブルと屋内ケーブルは、メカニカルスプライスで接続する。これらの工具が一式入った工具箱には、フジクラのロゴがあった。ONUは富士通製だった。 まずは屋内用のケーブルの端末処理だ。光ファイバ芯線を挟むように入っている2本のテンションメンバを外被ごと手で裂くと、中からコートされた単芯のファイバが出てくる。これをホルダ(写真中、手で持っているもの)に挟んでホッチキスのようなカッターに差し込み、爪切りのようにして切る。これで端面の平坦度が出るらしい。昔(私が)研究室でやっていたような、ペーパーを使った端面の研磨などは一切しない。
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Fig.1-5
箱から出したばかりのONU
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Fig.1-6
カッターで切ったばかりのファイバ芯線
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次はこれまたホッチキスのような治具にファイバを挿し入れて、挟んで引っ張ると、コーティングが取れる。ファイバ側面をきれいにする(ここにゴミが付いていると、メカスプ内部のV溝にセットした時に、芯の中心がずれる)ために、脱脂綿で拭く。 後は両者をホルダに入れたまま、メカスプ本体を治具にセットしたら、そのホルダごと両ファイバも治具にセットして突き当て、ふたをカチンと閉めるだけである。これで、メカスプ内部で、両ファイバが突き当てられたまま、V溝に固定され、動かなくなる。 治具が整備されているので簡単なように見えるが、この作業は、実は非常に高精度なものだ。
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メカスプが開発される前は、端面を平坦に研磨した後、両方のファイバの芯線をCCDで撮影しながら、画像処理で中心を求めて、中心に来たところで(自動で)放電を飛ばして、両方を溶かしてくっつけるという「融着接続」をやっていた。もちろん専用工具を使うのだが、結構これが大きくて時間もかかったようだ。 担当者は慣れた手つきでどんどんこなしてゆく。ここまで3分ほどしかかかっていない。まさにあっという間である。これでなければアクセス系の光化なんて、とてもじゃないがやってられないだろうな、と思う。逆に言えば、需要があれば、どんなに研究室レベルでは面倒で、精度を要する作業でも、専用の治具が開発されて、一発でサブミクロンオーダの芯出しが無電源・無調整でできるようになってしまう、ということだろう。特に無電源は大きい。現場でどこでも100Vが使えるわけでなし、バッテリーを積めば重くなる。
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Fig.1-7
メカニカルスプライス治具
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手際よくやっていたので声をかけづらかったのだが、一段落ついた時に、最近は融着接続はやらないのか聞いてみた。 すると「テープ芯線(多数のファイバがテープ状に配列された芯線。多芯ケーブルで用いられる)ではやりますが、単芯ではもうやりませんね。テープはメカスプを何個も並べられませんから。」と教えてくれた。 確かに、多芯ケーブルでメカスプを何十個も並べたら、配管の中に入らなくなってしまう。それに、多芯の融着機は、複数のファイバを一気に融着できるようになっているから、効率もいいのかも知れない。
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Fig.1-8
メカスプと余長をONUに収納する
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Fig.1-9
屋内用ケーブルを縦系配管に通してゆく
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メカスプが終わり、これをONUの中に収めて、室内の作業は一段落着いた。外ではもう一人の屋内配線担当者が、縦系配管の配線作業を続けていた。
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階段から下を見ると、ちょうど外の工事のバケット車が2台、到着していた。慌てて下に下りて外に出ると、すでに作業が始まっていた。バケット車はそのうちの1台が程なくリフトアップして作業を始めた。 挨拶した現場責任者は20代半ばの、なかなかイケメンなお兄さんだ。「MDFの場所を教えてほしい」というので、場所まで案内してカギを開けておく。 よく見ると、バケット車が合計3台の他に、トラックも1台来ている。おまけに、交通整理のおじさんまで出ていて、総勢7人もの大工事だ。何でこんなに大掛かりなんだろう…と思いつつ、写真を撮る。
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Fig.2-1
続々到着したバケット車
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Fig.2-2
車両4台+作業者7人の大工事
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顔をお見せできないのが残念だが、冒頭の現場責任者を始め、作業をしているのはほとんど皆20代くらいの若い人で、イケメン揃い(交通整理のおじさんも元イケメン?)である。 そのままBフレッツのCMにしたら、SMAPのCMよりも女性の契約者が増えるのではないかと思うほどだ(褒め過ぎ?)。また、中には新人と思しき10代(多分)のお兄さんも現場責任者の指導を受けながら、がんばって通線作業をしていた。 この調子で行くと、うちの階のIDFからPDSSの配線までは先に終わってしまうだろうから、そうすると屋内の担当者は待たされることになる。最終試験は誰がやるのか、聞いてみた。屋内の担当者だそうである。
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Fig.2-3
吊るしてあったケーブルの束が解かれる
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Fig.2-4
ケーブルは実は単線8本の「束」
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ここ2ヶ月ほどマンション前の電線の上で、とぐろを巻いていた黒いケーブルが外され、端末処理が始まった。よく見ると、ケーブルはやはり単芯で、メッセンワイヤと呼ばれる鉄線がテンションを担い、ケーブル本体の8本は、一戸建ての引き込みに使われるようなものである。8芯と聞いた時はてっきり一体モノだと思っていたが、違うらしい。屋内担当の二人は、ひたすら縦系配管を上から下へと通している(この後、通した後は屋内の担当者2人は、バケット車の中で待っていたらしい)。
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現場責任者に「ハンドホールはどこですか」と聞かれて案内する。路上では、バケットに乗った一人が、屋外配線の束ほどき、引き込み柱に入れてようとしている。そのうち、この人が悩み始めた。外配管に入っているナイロン紐が、引き込み口に来ていないため、ケーブルを通線できないということらしい。 現調の時に、紐は引き込み柱中程の「窓」までしか来ていないのは知っていたから、「紐はここまでしか来ていません」と教えてあげた。担当者らは早速、窓を外して、8芯のケーブルをそこまで入れ、ナイロン紐に結わえ付けて、ハンドホール側から引っ張り始めた。
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Fig.2-5
引込み口からケーブルを入れる
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Fig.2-6
紐は途中までしか来ていない
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ハンドホールまでもすんなりとは行かないまでも、さして支障なく通線できた。このマンションは、幸運なことに配管などは、余裕を持たせてあるのと、極端な曲がりや管のつぶれなどがないため、ここまで通線にほとんど問題は生じていない。 築10年未満で比較的新しいのでよかったが、古いマンションでは建てられた時代に、通信は電話しか想定されていないから、配管も細いかもしれない。 また、これは新しい/古いとは別問題だが、配管が手荒く扱われて、折れたりしたままスラブ(コンクリート)を流し込んだり(屋内)、埋め戻し(屋外)たりすると、その間は後から通線できない。 このようなことがあるので、図面上、空き配管はあっても物理的に引けないことがあるので、現場調査で確認しておくことは必須だ。集合住宅で、調査もなしに工事を始めることは、まずないとは思うが…。
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Fig.2-7
ハンドホールまで屋外ケーブルが来た
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Fig.2-8
MDFまでの紐に結わえ付ける
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Fig.2-9
MDFまで通線後にブルーのカバーを付ける
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ハンドホールからMDFまでは、配線長にしてわずか3m足らずなので、すぐに通線完了だ。 ここまで見ていた感想だが、ケーブルは相当手荒く扱われている。「手荒く」というと語弊があるが、普通の電線と全く同じように扱っても平気なようだ。 現場作業では、銅線だろうがファイバだろうが、同じように扱えなければ、工数がかかって仕方がないし、作業者に特別な教育をしなければならないだろうから、多少のことでは不具合が生じないように作ってあるのだろう。開発した人たちの苦労が思われる。 さて、ここで10時頃である。外のケーブルがMDFまで届いた頃だ。PDSSの設置場所がどこなのか、外の責任者らしき人に聞いてみた。MDFだと言うが、持っている現調の報告書の図面には2階のIDFと書いてある。「MDFは狭いから2階のIDFだとNTTから聞いている」と説明して、MDFを見てもらった。やはり狭い、と納得して2階にケーブルを上げ始めた。
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Fig.2-10
MDFまで屋外ケーブルが来た
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ところが、ところが…。かなり2階に近い途中まで来たところで、屋外ケーブルが足りないことが分かってしまった。2階で紐を引っ張っていたお兄さんが「ウソだろー、マジかよー」とかブツブツ言っている。最初は何のことか分からなかったが、ケーブルを戻し始めたので、合点が行った。 PDSSはMDFに設置することになった。かなりスペース的には無理があるが、全く入らないわけでもない。屋外配線は短くて済むが、今度は屋内配線の長さが足りなくなるかもしれない。屋内配線の担当者の一人は、「(屋内ケーブルを)長めに切っといて良かった」とか独り言を言っている。ということで、引きなおしという最悪の事態は避けられたのだが、現場作業って、こんなもんかぁ?
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もちろん、最初にあのとぐろを巻いた屋外ケーブルを切った人は、MDFまで、ということで、ほとんど間違いなく切ってあったのだが…。 ここまでで、外の担当者は引き揚げた。交通整理のおじさんも引き揚げた。バケット車は、屋内担当者の1台だけとなった。なぜこんなに車両が多いのか聞くと、当日はこの後、多数の工事があって、別々のところに行くので、車両が多いのだそうだ。確かに、一戸建ての工事なら、こんなに人数は必要ない。朝一番で、多人数必要なうちの工事をみんなで一気に片付けた、ということだと思う。 Bフレッツの工事は忙しく、日が暮れるまで1日で3〜4件の工事をこなす毎日だという。
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Fig.3-1
引込まれた屋外ケーブル
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よほど手際よくやらないと、これだけこなせないだろう。現場調査で大半は分かっているものの、引いてみて分かる問題点もあるだろうし、依頼者が変更してほしいと言ってくることもあるだろう。そういった場面に、いかに対応するか、なかなか困難な仕事だ。
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PDSSの設置、屋外ケーブルと屋内ケーブルの接続以降は、屋内担当者がチェックまでやる。まずは2階のIDFまでしか来ていなかった屋内用ケーブルを降ろしてくる。これは先に書いたように、屋外ケーブルが2階まで届かなかったためだ。
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Fig.3-2
上から屋内用(肌色)と屋外用ケーブル(黒)
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Fig.3-3
MDF内に取り付けられたPDSS
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次に、PDSSをMDFの空きスペースに固定する。かなり無理矢理スペースを作ってはめ込む感じだ。PDSSが付いたら、いよいよ屋外ケーブルと屋内ケーブルの接続である。ここもメカスプでつなぐ。MDFのある場所は北側の廊下で暗いのだが、室内同様、手際よくつないでゆく。PDSSの中身は、出入りの光ファイバを余長を持たせて丸めておく部分と、メカスプをホールドする部分である。大きさとしては13cm角くらいで厚さは3から4cmだ。8本収納するにはチョット小さい気もする。中にはメカスプを固定する溝とファイバを巻いておくリールのような部分がある。
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Fig.3-4
PDSS取付け部分の拡大
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Fig.3-5
屋内側・屋外側のファイバ芯線
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Fig.3-6
PDSSの近くでスプライスする
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Fig.3-7
芯線だけを引き出しスプライス準備
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屋内・屋外のそれぞれのケーブルの処理は少し見ていて複雑だった。まず、PDSSに数10cm程度の両者ケーブルを巻いておき、必要なだけ芯線を出しておく。芯線が出ている長さはさほど長くないので、PDSSの近くで治具を使って接続する。 次に、PDSSにメカスプ本体をはめ込み、余長の芯線を巻き取って終了だ。メカスプの部分は、専用にはめ込みスペースが作られていた。写真では写っていないが、これらの作業が済んだ後にPDSSにカバーをかぶせる。透明なプラスチック製なので、中の様子が大体外から見えるようになっている。 当面は接続しない残りの7本は、MDFの中に束ねておいて置かれた。これで、まだ信号は流れていないが、電話局までファイバが繋がったことになる。 MDFの扉を閉めて、管理人さんにカギを返す。いよいよ接続試験だ。これで問題がなければ、NTTで行なう工事は終了だ。
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Fig.3-8
余った芯線とスプライス本体を収納
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