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共鳴箱と初めて出会ったのは、熊野さんとの出会いと同時です。決して静かとはいえないデパートの売り場で、私が調整をお願いしたオルゴールは、調整前と調整後、共鳴箱の上に乗せられてチェックされました。このとき、周囲が騒がしいながらも、共鳴箱の有無でこれだけ音が違うのか、と驚いたのを覚えています。その共鳴箱は、熊野さんの製作したものでしたが、自分では製作する気にはなりませんでした。とても自分にそんな木工技術はありませんでしたから…。 しばらくして、やはり自分で作ってみたくなり、適当なものを作ったりしていましたが、釘は曲がるは板は反るはで、満足の行くものができず、諦めていました。ただ、明らかに音は大きくクリアになるので、いつかは本格的なものが欲しいと考えるようになりました。 ここ数年になって、ホームセンターなどで買ってきた集成材で、無線関係の入れ物を作るようになり、安易にも板材はカットしてもらうことを覚えました。これで、寸法精度は出るようになりますから、あとは組み付けだけです。 なぜこうしたかと言うと、本格的なものをどこかに作ってもらうにしても、寸法は自分で決めたい、形状によって音がどう違うのか実験したい、という想いがあったからです。材質は今までのボックスの製作経験から決められるとしても、形は何かしらの予備実験をして決めたいのでした。
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共鳴箱の働きは、オルゴールの話編 2-5でも一部書きましたが、響板とボックスの働きの延長上にあります。すなわち、ムーブメントからの機械的な振動のエネルギーを、空気の振動(音)に効率よく変換することです。 ところが、ムーブメントからの振動は、響板やボックスですべて音になるわけではありません。特に、ボックスが小さいと、低音が変換しきれません。 残念ながら、音響工学についての専門知識もないので、共鳴箱の寸法を決める学問的な根拠は持ち合わせていません。唯一あるのは「耳」だけです。しかしながら、5台も10台も様々な形状を試作してみる時間も(板材を買う)お金もありません。 さぁ、どうしたものかと思っていたある日のこと。その日は、子供の春休みを利用して、伊豆高原に1泊旅行に出かけていました。ここにはオルゴール館がありますが、演奏が始まるまでの空き時間に、ショップを見ていたときのこと…共鳴箱が売られているではありませんか。近くにあった(多分三協精機の50弁)オルゴールとともに、「試聴は店員までお願いします」と書かれていますが、勝手に鳴らしている人もいて、その効果を確かめることができました。 これがお値段の割に結構いい響きなのです。早速、その寸法・板厚を目測で頭に入れました(気に入ったんなら買え、という気もするが…)。妻にも「気に入ったんなら買えば?」と言われたのですが、どうしても自分で試作してみて、静かなところで聞いてみてから決めたかったのが1つ目の理由。2つ目の理由は、板厚がイマイチ薄くて、もう少し厚めのものの方が、音の伸びがいいと思えたことです。それで、ショップには申し訳ないのですが、寸法だけを記憶にとどめて、購入しませんでした。 この共鳴箱のサイズは結構大きめで、約450(W)×100(H)×300(D) (mm)、板厚は10mm程度ありました。もちろん、音の出る方は口が開いている格好です。家に帰って、早速この寸法を参考にして、試作機を作ることにしました。満足の行く音が出れば、しっかりとした技術のある家具屋さんに、無垢の板でボックスを作ってもらい完成品とし、そうでなければ試行錯誤を続けるつもりでした。
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実験計画というほどの大げさなものはないのですが…。
- 寸法
伊豆高原のオルゴール館で見た共鳴箱の記憶を頼りに、図面を書いてみます。寸法は前に書いた通り450(W)×100(H)×300(D)程度とします。実際には、板厚と板取を考えて寸法を決めます。
- 材料
板は無垢の一枚板などは、とても実験に使える値段ではありませんので、ホームセンターなどで手に入る集成材とします。
- パラメータ
あまり多くの寸法や板厚、板材の違いをテストするわけには行かないので、今回はとりあえず板厚の差のみに着目することにします。板厚の違う材料で、外形をほぼ同じ寸法で製作し、比較します。近くのホームセンターには、板厚が9mmのものと18mmのものがありますので、この2種の厚さとします。
- 比較方法
2種類の箱に6台のオルゴールを載せて、実際に聞いて比較すると同時に、ディジタル録音して後で比較できるようにする
工作は、購入した板をその場で切ってもらって、ねじで組み付けるだけですから、大した工数は必要ないのですが、ディジタル録音が問題です。 DATデッキはありますが、マイク入力ができません。また、録音できてもディジタル入力を持つサウンドカードがありませんので、PCにデータを取り込めません。録音さえできれば、PCへの取り込みは後日ゆっくりやればいいので、とりあえず先にマイクアンプを自作し、サウンドカードは、後日調達することにしました。 (マイクアンプの自作は、設計編・製作編に詳細があります。)
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板厚9mmの材料を使って、1号機を試作しました。寸法は、480(W)×118(H)×300(D)です。内法で、幅450mmくらいを取りたいので少し幅を大きくしたのと、高さ方向も内法で100mm取りたいので、このようにしています。 板を選ぶ時は、極力反りの少ないものを選びます。ホームセンターのアルバイトのお兄さんは、0.5mmも誤差なく、板を切ってくれました。家に帰って、箱型に組み立てます。 3.1mm×25mmの木ねじで止めて行きますが、板が9mmと薄いため、板の端から4.5mmの位置に錐で下穴を開けてからネジ止めします。こうしないと、ネジの中心がズレた時に下の板が割れてしまうことがあります。
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Fig. 2-1
共鳴箱試作1号機 全景
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Fig. 2-2
試作1号機 正面
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Fig. 2-3
試作1号機 背面
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ネジの間隔は10cmとしました(写真のものは間隔が5cmです。理由は後述)。箱の中心線に対して左右対称にします。 早速、Fig. 1-2のような感じで、箱の下に木のツマミ用に売っていた木の「駒」を足として置き、オルゴールを乗せて鳴らしてみました。 いい感じかな、と思ったのですが、今ひとつ中低音に伸びがありません。痩せた音がします。あちこち押したりして、原因を探っていたところ、オルゴールを押し付けて密着させると、件の中低音の伸びが格段に良くなることが分かりました。でも板はきちんと水平ですし、オルゴールの足とは四隅できちんと接触しています。 接触面が悪いとは考えにくいので、よく調べてみると、オルゴールを押さなくても、天板を上から押し付けてやれば、同じ効果があることがわかりました。 何故こうなるのか。板と板を押し付けてやると、音がよくなるのだから、板同志の密着性がどこかで悪いに違いありません。
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Fig. 2-4
試作1号機にオルゴールを乗せてみた
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Fig. 2-5
本体に対して大きさには余裕がある
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モノをよく見てみると…天板と側板が接合されるところにわずかな隙間があります。箱を窓に向けて内側から覗くと、ほっそりと光が漏れてくるので分かります。反りの少ない集成材を選んだとは言え、完全に反りがないわけではなく、部分的に少し反っていることがわかりました。その上、ネジ止めの間隔が10cmと広かったため、反りを矯正し切れない部分があった、ということだと思います。 そこで、ネジ止めの間隔をすべて5cm(縦の辺は3cm)にすることにしました。ここの写真はすべて改造後のものですが、真空チャンバーのフランジ(いきなり専門用語)のように、ネジだらけなのが分かります。接着剤を使っても良かったのですが、接合面はなるべくきちんと、素材そのものが接触してほしかったので、あえてやめました。 この改造後、中低音もきちんと出るようになり、実験としては、完成と言っていいレベルになりました。木組みの重要性を思い知らされました。板厚は、モデルとした共鳴箱と同じ程度ですから、きっとあの箱もこんな音がするのでしょう。
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板厚を変えた2号機の製作です。今度は18mmと分厚くなります。これで音がどう変わるか、楽しみです。1号機で、「接合部分は十分に板どうしの接触を取る」というコツが分かりましたから、今回も同様に「真空チャンバーのフランジ」状態にしてみます。 板厚が厚いので、ネジも3.5mm×25mmに太くします。下穴あけは、板が厚いので、中心を外しても板が割れることはあまりないので、絶対必要ではありません。ただ、位置決めが容易なのと仕上がりがきれいなので、1号機同様、下穴を開けて組み付けました。 ラチェットドライバーを使っても、これだけのネジ締めは、手にできたマメが潰れるほど大変でした。
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Fig. 2-6
共鳴箱試作2号機 全景
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Fig. 2-7
試作2号機 正面
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Fig. 2-8
試作2号機 背面
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上の写真のように出来上がったので、鳴らしてみます。 今度は一発でほぼ納得いく音で鳴ってくれました。次は1号機との聞き比べです。同じオルゴールで、箱だけを取り替えながら、比較してみます。予想した通り、2号機の方が音の深みと広がりがあることがわかりました。 ただ、2号機の方に、少し低音の「うなり」のような余分な響きがあるのが気にかかります。最も低音の強いNo.44のパッヘルベルのカノンでは、「ボーン」という感じの音になります。共鳴しているのかもしれません。 1号機と2号機の差は、聞いていて、その差は注意して聞けば分かりますが、何気なく聞いていると分からない程度でした。低音のうなりは2号機の方が大きいですが、それに勝る効果がありそうなので、やはり「製品機」は2号機をモデルにすることにします。
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Fig. 2-9
試作2号機にオルゴールを乗せた
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Fig. 2-10
1号機と同じ寸法で製作
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製作した2台を比較するため、重ねてみました(Fig. 1-11)。高さ以外の外形寸法は全く同じで、板厚のみが異なります。 2号機は結構重いので、製品機ではもう少し緻密な木を選ぶかわりに、板厚は少し薄くしようと思います。 ちょっと余談になりますが、息子の小さなオルゴールは、2号機よりも1号機の方が大きな音で鳴りました。不思議な気もしますが、シロウト考えでは、ムーブメントとボックスの合計質量がある程度ないと、ボックスと共鳴箱の接触面で反射が起こり、ボックス側からのエネルギー伝達がうまく行かないのではないかと想像しています(あくまで「エレキ頭」での想像です)。
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Fig. 2-11
寸法は1号機と同等
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共鳴箱の録音風景のようなセットアップで、録音したデータ(mp3)をここに置きます。ビットレートが速いので、ストリーム再生はできるようにしていません。ダウンロードしてからお聴き下さい。また、ファイルサイズが大きいので、低速の回線では、長時間かかることをお許し下さい。 手順としては、DATで録音した48kHzサンプリングのマスターから、ちょうどいい速さの部分だけを3回転分切り出し、そのままMP3に256kbpsでエンコードしています。エフェクトなどは一切加えていません。
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1号機と2号機の違いは、注意深くヘッドホンでもして聞かないと、分からないかもしれません。実際に生で聞いてみると、かなり違うのですが、マイクのセッティングがイマイチなのかもしれません。 元オーディオメーカーに勤めていた会社の同僚に聞いてもらったところ、「マイクが『オン』過ぎる(音源に近過ぎる)のでは? S/Nが許せばの話ですが、離したほうがいい」と言われました。ずばりその通りなのですが、離すと、指摘の通り音量が十分でないため、S/Nが取れません。電気的なノイズだけでなく、一般家庭に入ってくる外からの諸々の音が問題になり始めるからです。頭の痛いところです。 生で聞くと、2号機の方が低音がよく出ていて、高音はどちらもあまり変わりません。多分、高音はボックスからの直の音で、低音側を共鳴箱が受け持っているということだと思います。また、どちらかといえば2号機の方が、音が素直な気がします。低音の「ボワーン」という変な唸りは、残ってはいるのですが。
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1号機と2号機の比較実験から、板厚の厚い2号機をモデルにすることを決めましたが、材質を何にするか、具体的な寸法をどうするか、などは何も決めていません。ただ、依頼先だけは決めていました。
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以前に机を頼んだことがある、近くの家具屋(戸山家具製作所:リンクページ参照)さんです。無垢の材料を使って、精巧な木組みができる技術をお持ちです。詳しくは後で書くことにして、まず2号機をモデルに図面を書きました。 2号機と違うのは、板厚です。箱が重すぎるのと、3mm薄くなったことで音質が大きくは変わらないと踏んでのことです。それよりは、材質の変化の方が大きいはずです。 右の図面では、材質がウオールナットとなっていますが、当初はオーク(樫)も検討しました。打合せの上でウオールナットにしたので、図面上こうなっています。 また、持ち運びが容易なように、高さ10mmの足を付けてあります。
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Fig. 3-1
「製品機」の製作依頼図面
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図面ができたので、費用のことも含めて、家具屋さんに相談に行きました。以前、子供の机を製作してもらったときに、「木のものなら何でも作ります」とおっしゃっていたので、「家具」ではないのですが、お願いしてみました。
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□ 3-2 Knockonwood(戸山家具製作所)さんのこと |
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Fig. 3-2
戸山家具製作所製の勉強机
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戸山家具製作所は、家から車で数分のところに、工場と直営ショップがあります。戦後まもなく横浜で創業した家具屋さんで、クラシックなものから、現代的なデザインまで、様々な物を手がけておられます。工場と同じ建物の中に、直営ショップ Knock on wood があります(詳しくはリンクページをご参照下さい)。子供の小学校入学の際には、Fig. 1-13のような机と脇机を製作していただきました。 電灯のスイッチプレートや本立て、帽子掛けなどの小物から、大型の作り付けの家具まで、木で作れる物はほとんど何でも製作しています。手作りですから、お値段もそれなりですが、メンテナンスはずっと受けられますし、頑丈なので長く使えて、結局お得で環境的にもいい、ということで、息子の机はここに決めました。納入前に子供を連れて行った時も、特別に工場の中を案内までしていただき、大変お世話になりました。 社長さんが阪神ファンで、2003年は優勝セールで安くしていただいたのですが、申し訳ないくらい実直な仕事の製品でした。
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さて、上の図面(Fig. 1-12)を持って、Knock on woodに行くといつも応対して下さるWさんが、お話を聞いてくれました。オルゴールの共鳴箱という特殊な物だが、こちらで実験機を作って板厚を変えた実験をしていることや、継ぎ目の密着性が音質に大きく影響することなどを話しました。 すると、Wさんからは、オルゴールの共鳴箱というのは作ったことがないが、スピーカーボックスを頼まれることは良くあるので、やってみましょう、とのこと。ただ、接合に関しては、湿気を吸ったり呼吸したりする、生き物の「木」を相手にするので、完璧に動かず密着した構造にすることは不可能だ、ということも教えていただきました。複雑な組み手継などもできないことはないが、コストが跳ね上がるので、必要以上に複雑にすることはない、という提案でした。すでに本棚などで採用されている、比較的単純な構造ながら、子供が乗ったぐらいでは棚が落ちないような、頑丈な接合方法を採用することに決めました。材質は、響きを重視するならウオールナットの方がいいということなので、それに決めました。 初めて手がけるので、戸山家具の方でも興味があり、両者とも手探りなので、実験結果はこちらから公開していきながら進めていくことにしました。初めてのものに対すしても、「研究してみましょう」という探究心が、非常に前向きに感じられました。家具の一揃い買っていくお客さんに比べれば、小さな箱ひとつなのに、木についていろいろと勉強させてもらい、大変感謝しています。
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戸山家具にお願いしていた共鳴箱の製品版1号機(「本番機」という呼び方は、何が「本番」なのか分からないので、やめました)が、出来上がりました。待ちきれなくて、納期より数日前お電話したら、「まだです」と言われてしまいました。(出来上がったのは10月に入ってからですが、写真や録音設定の都合で掲載が遅くなりました。) 本当は、(研究という意味で)職人の方にも音の違いを体感していただきたくて、平日の昼間にお邪魔しようと思っていたのですが、休みが取れなかったため、土曜のお店が空いている閉店間際に伺いました。 「もう出来てますから、こちらへ」と、いつも応対して下さるWさんに案内され、\1,000万のウオールナットの一枚板でできたテーブルのある社内の会議室に通されます。
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Fig. 3-3
底面中央にあるKnockonwoodの焼印
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そのテーブルの上には今回の製品が…。ウオールナットの色のせいか、板厚は実験機の2号機より薄いのに、非常に重厚感がありました。実際持ってみると、少し重い気がしました。底面にはFig. 3-3のようなこちらの製品に入っている焼印がくっきりです。
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Fig. 3-4
製作した共鳴箱の正面
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Fig. 3-5
背面
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継ぎ目も見てみましたが、大変頑丈な造りです。子供が乗っても壊れそうもありません。実際に書棚などはこれと同じ継ぎ方で作っているそうで、子供が座っても壊れないそうです。写真のようにピッタリです。私の工作と比較しては失礼ですね。 音質に特徴のある、No.25のモーツアルトのピアノ協奏曲21番とNo.44のパッヘルベルのカノン、それにNo.6の別れの曲(いずれも3パート)を持って行こうと思ったのですが、あまり長時間お邪魔してもと思い、前者2台だけにしました。ピアノ協奏曲は繊細なこまやかな響きが、カノンはボックスだけでは手に余りそうな低音が、それぞれテストできます。
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Fig. 3-6
頑丈な板の継ぎの部分(前)
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Fig. 3-7
継ぎの部分(後)
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私は、共鳴箱を使うことで、音がどの程度広がるかを知っていますし、事前に実験機の音を聞いてある程度の感触を掴んでいましたから、心配は全くしていませんでした。出来上がってきたものを見て、軽くノックするように叩いてみたときは、(試作機よりは)いい音が出るのを確信していました。 一方、心配でたまらなかったというWさん。オルゴールを共鳴箱に載せて聞くのは初めての様子でした。 いよいよ試聴です。自作オーディオのファンなら、初めてプレーヤーに針を落として、スピーカーから流れてくる、その初めての音を待つようなドキドキ感。 確か、最初にピアノ協奏曲を試聴しました。低音も変な響きがなく、全周波数域にわたって試作機よりはフラットないい音でした。 次に、低音の目立つパッヘルベルのカノン。これも特定の低音が強調されることなく、この共鳴箱は見事に鳴らし切りました。
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Fig. 3-8
製品機にオルゴールを乗せた
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Fig. 3-9
これまで製作したものとの比較
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私が満足したのは言うまでもありませんが、それを見ていたWさんも安堵されていました。やはり、クリチカルな品物な上に、初物なので、不安でいっぱいだった、とのことでした。技術屋のはしくれとして、よく分かります、その気持ち。「単純な構造だけに、騙しが効かない」ともおっしゃっていました。 この後、録音データも公開していますが、録音ではマイクのセッティングがイマイチなのか、機械で音を録る、ということの限界なのか、違いがあまり分からないのが残念です。実際、ここであれこれ批評していますが、その差は微妙です。完全に聞き分ける耳があるかと言われると私も自信がありません。 ですから、家具屋さんに頼むまでしなくても、まず最初のステップとして、ご自分で製作されてみてはいかがでしょうか? ホームセンターなどで売られている、各種の集成材を寸法にカットし、ネジでしっかり組付ければ、ボックスのみとは格段に違う世界です。100円ショップのオルゴールだって、感動的な音が出ます。 それで、まだ[イマイチな(あるいは想像と違う)音だな]とお思いならば、さらに家具屋さんなど専門技術を持つ方を巻き込んで、究極の音を目指して「ハマって」みるのも、楽しいと思いますよ。
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(日記にも書きましたが)レベル設定を合わせたはずなのに試作機の時と違っていたり、せっかくセッティングしたのに起きたら日が昇っていたりして、先日日曜の夜中に、やっと録音することができました。セッティングは以前と同じよう(Fig. 3-10,11)に、戸山家具製の机の上に共鳴箱とオルゴールを載せ、後ろ側に反射板(スプルースのまな板2枚)です。
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Fig. 3-10
マイクセッティング 左側
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Fig. 3-11
マイクセッティング 右側
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Fig. 3-12
マイクセッティング 正面
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今回、事前に分かっていたことなのですが、No.44のパッヘルベルのカノンから、異音がしています。所々で金属同士をこするような嫌な音がします。音の出るタイミングや出方(大きさや持続時間)はシリンダーの位置と相関があったため、最初はダンパーの破損を疑いました。 上面のガラスを外してよく見てみましたが、それらしき状況は見られませんると、やはり下から26番目のダンパーが下を向いてしまっていました。また、音の出ている位置も、再現性はあるようですが一定位置からではなく、シリンダー上の数ヶ所から出ているような感じです曲がっているダンパーのタイミングに一致しました。詳しくは、こちら。 前回の録音の時は何事もなかったのに、突然です。何度か回しているうちに消えてくれないかと思いましたが、ダメだったので、修理に出すことにします。時間がかかりそうなので、今回は雑音入りのまま収録しました。ご了承下さい。雑音入りのデータはこちらに移しました。
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以下は、どうでもいいことですが、前回と録音環境が少し変わっています。向かって左側の「カラーボックス」の本棚は、いわゆるメタルラックになっており、共鳴するかもしれないので、適当な布をかぶせ、机からは少し離しています。(Fig. 3-11) また、DATデッキをPCの部屋に(PCへの取込みのため)持ってきたので、多少アナログ部分のケーブルが2m程度長くなっています。マイクケーブルの長さは前と同じです。 録音結果を以下にまとめました。 (#44「カノン」3 partは、修理済みの録音に入替えました。[2005/05/07])
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前回の試作機の録音と、同じ曲どうしで聞き比べてみてください。ただ、戸山家具で試聴した項でも書きましたように、録音したものでは、聞き比べてもよく分からないかもしれません。ポイントは特に低音の響きで、特定の音域が強調されていないか? 音の豊かさ(残響、広がり感など)はどうか、などに注意して聞いてみると、「そう言われればそうかも」という程度の違いが分かるかもしれません。 オーディオにも造詣の深い方からの、鋭いコメント、チェックをお待ちしています。 マイクの感度と音量の関係から、写真でも見ての通り、かなりオンマイク(発音源に近づけたマイク)で収録しています。ヘッドホンで音量を上げて聞いたり、スピーカーの近くで聞いたりすると、金属音が目立って不自然に聞こえます。適当な音量と距離で聞いてみて下さい。
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□ 4-1 No.44パッヘルベルの「カノン」の異音は何か? |
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まず、どんな現象が起きているのか、事実を整理しましょう。
- 「異音」とはどんな音?
「振動している音叉に、紙や金属箔を徐々に近づけて、触れるか触れないかの状態の時に出る音」とでも言いましょうか…。具体的には「チー」とも「ニー」ともつかない、何とも嫌な音です。何かが共振して出るような音ではないようです。文章で説明するよりも、実際の音を聞いていただいた方がいいので、右にその音を含む録音データを載せておきます。
- いつから出ている?
戸山家具に持って行って、性能確認のために聞いた時は何ともなかったので、(2004年)10月上旬から(最初に録音を失敗する)11月中旬までのどこかでしょう。
- 観察の結果は?
(harpmaster様のご指摘より)ダンパー周りの不具合を疑い、明るいところで櫛歯の先端周辺をよく観察すると、下から26番目の櫛歯の先がおかしい(櫛歯本体は問題なし)。明らかにダンパーが下向きに曲がっていました。他のダンパーは正しく並んでいました。
- 異音の出るタイミングとシリンダーの回転との相関は?
異音の出るタイミングは、この下から26番目の櫛歯が弾かれる直前に出るケースが全てであることが分かりました。この歯が弾かれる時に異音がしないケースもありましたが、逆はありませんでした。
- 思い当たる原因は?
落としたとか、ぶつけたとかいうことは、全くありません。子供には全く触らせないようにしていますので、こっそりいじられて壊された、ということもありません。
と、こんなところです。Fig. 4-1を元に、もう少し考察をしてみます。
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Fig. 4-1
トラブルの起こった櫛歯の先端
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異音が出るのは、決まってこの変形したダンパーがピンに触れる時です。逆は必ずしもそうなっていないことがあります。つまり、ダンパーとピンが触れても異音がしない「ことがある」ということです。 これは、しばらくこの櫛歯が弾かれずにいて、振動が十分に減衰しているから(ダンパーの働きは、歯の振動中に次の音符が来た時に、振動を一旦止めることなので、振動していない歯にとっては、ダンパーはなくても同じ)だと思われます。 推測ですが、ピンとダンパーがほぼ水平に接触する正常状態で異音が出ず、ピンにダンパーが垂直近い角度で当ると異音がするのは、上の音叉の例えで、音叉の振動方向に垂直に紙を近づけると、より変な音が出やすいのでしょう(別の機会に実験してみます)。
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さて、ここまで分かったところで、2004年もあと1日になってしまいました。とても素人の手に負えるシロモノではないですから、年があけたら、熊野洞さんに修理について問合せてみることにします。
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2005年に入ってすぐ、上記のような内容を、熊野社長にメールでご説明しました。何度かやり取りをして、修理の依頼をしました。当初、横浜のデパートに来られるので、その際に手渡ししようと考えていたのですが、そもそも出展はするがご本人が来られないこともあること、デパートでの保管中に盗難や紛失・破損の危険があること、などのこともあり、工房の方へ直送することにしました。
いただいた故障に関してのコメントは、
- トラブルの状況から、やはりダンパーが原因だろう
- ダンパーは「消耗品」なので定期的に交換が必要。分解交換する。
とのことでした。ダンパーが消耗品であることは、知りませんでした。 梱包に関してもアドバイスいただき、「大き目のダンボールに、6方に梱包材を詰めて送れば大丈夫」とのことでした。元々このオルゴールを買った際に、結構丈夫な箱に入っていました。この箱を取ってありましたので、まずこれに入れて、さらに大き目のダンボールに入れて二重梱包にして送ればまず大丈夫でしょう。 アドバイスの通り、大き目の箱に十分梱包材(と言っても広告の紙を丸めたものですが)を詰めて、(2005年)1月9日に、熊野洞の工房宛に発送しました。「ワレモノ」「この面を上」と貼って…どうか輸送途中で別のところが壊れませんように。
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3月までは、熊野さんが大変忙しいとメールをもらっていました。4月になってからしばらくして、すでに修理に取りかかっている旨の連絡をもらいました。 数日後、修理完了の連絡もメールでもらいましたが、ダンパの修理は大変なことになっていたのでした。以下、熊野社長から届いた修理内容報告の概略です。
- ダンパー交換
2本折損。計14本を交換。但し、折損のもの以外は、多少のずれであり、通常なら問題にしない程度のもの。
- オイル注油
ギヤ回転部分、ゼンマイ接触部にオイル注油。「テンポが速くなるかも」とのことだが、問題なし。
- その他清掃・点検
ホコリ除去・ガラス押さえのパッキン補充・木部の狂い点検等
ダンパーの折損が2本だったとはショックでした。1弁だけのような気がしていたのですが…。また、他の12本の交換については、「私が納得行くまでじっくりと調整した結果(熊野氏)」であり、経時変化、あるいは使用により調整がずれたものではなく、元々リュージュの技術者がこのように調整したものではないか?とのことでした。 そこまで徹底的に音にこだわった調整をしていただいたのですから、聞いてみたくて仕方ありません。修理品が届いたのは平日でしたが、会社から帰ってすぐに休みの日にしか出してこない共鳴箱(製品版)をゴソゴソ出してきて、載せて聞いてみました。 すると、今までにこのムーブメントからは聞いたことのない、柔らかな音色が響き渡りました。久々にオルゴールを聞いて鳥肌が立ちました。「柔らかい」と書いてしまうと平凡な表現ですが、他の言葉で説明的に書くなら、「部品が金属でできていることを忘れてしまうような音」です。今回修理したのはダンパーですから、音の柔らかさは櫛歯とシリンダーの位置調整によるものと思われます。 また、そのダンパーに関連しては、ピンがダンパーに触れる瞬間の微小な音も前より少なくなっているような気がします。 熊野さんにはこの結果をメールで報告するとともに、お礼を書いておきました。当初のお見積もりよりも大変なオーバーなはずなのに、見積もり通りでやっていただいたので、大変な赤字ではないかと思うのです。嬉しいやら申し訳ないやら、複雑な気分です。 録音の方は5月連休最終日[2005/05/08]の明け方に、やっと終わりました。ダンパーの故障以外の音の違いは、録音ではよく分かりませんが、全体的に音が柔らかくなりました。3-4の該当する欄のファイルを入れ替えておきました。上の4-1で、修理前の録音と聞き比べてみて下さい。
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