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まずは、工程の最初の木工作室です。木工作の一通りの工作機械がありました。特徴的だったのは、Fig. 1-2やFig. 1-3のような大型の機械だけではなく、鉛筆のように細い彫刻刀やカンナといった、細かい造作をする工具が多かったことと、作業場に置かれた材料となる木の樹種が非常に多かったことです。
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Fig. 1-1
工作室に置かれた材料
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Fig. 1-2
工作室の内部(その1)
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樹種による響きの違いも、詳しく教えていただきました。硬い木は工作に骨が折れるという話で、特に黒檀(水に沈む)などの木は、カンナの刃がすぐに減ってしまうそうです。
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ボックスは幅の広い板から切り出しますが、その際余った切れ端も、細かな部品を作るのに必要なので、取っておく、とのことでした。このときは、横浜のベイブリッジをモチーフにしたオルゴールを「開発中」とのことでした。 熊野さん作るのボックスは、デザインの良さとともに、その工作精度にも驚いてしまうのですが、それがこの工房で生み出されていると思うと、なんともいえず神聖な感じがしました。私などは金属加工でもこんな精度出せません…。 最近はオルゴールだけでなく、木のバッグも製作されているようで、この部屋から生み出されているのでしょう。バッグの方は、女性用(と指定して作られているわけではありませんが…)が主なので、私は縁がないのです。ノートPCをお持ちの方は、ビジネスバッグ調のノートPCケースとして特注するのもいいかもしれません。
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Fig. 1-3
工作室の内部(その2)
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工作室と工房の上の階は、(私がお尋ねした時は)熊野さんの設計スペースと材料の置き場になっていました。材木もムーブメントも湿度が調整された大き目の押入れのようなところに保管されていました。
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Fig. 1-4
裸の状態のムーブメント
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Fig. 1-5
倉庫?兼乾燥室
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Fig. 1-4は、ムーブメントを取り出して見せていただいたところですが、「生」のムーブメントを見たのはこれが最初で最後です。
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Fig. 1-6
ムーブメントの保管庫
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材料となる木材は、Fig. 1-5のように乾燥されるそうです。熊野さんは、仕入れてきた材料の水分含有量を測定し、ある範囲になるまで乾燥させてから工作にかかるそうです。そうでないと、工作してから狂いが生じ、曲がったり反ったりするからです。つくづく大変な作業だなと思いました。 また、オルゴールはその保管場所にも注意が必要で、一般家庭の中で特に高湿度となるのは(風呂場やトイレにオルゴールを置く人はいませんからそれらを除いて)、寝室だそうです。台所かと思いましたが意外です。確かに、我が家などは狭い部屋に3人も寝ていますから、夏などは寝苦しいことこの上なしですし、冬も窓に結露がびっしりです。湿度は相当高いでしょう。ムーブメントの錆も気になりますから、寝室には置かない方が無難でしょう。 ムーブメントはFig. 1-6のような場所に保管されていました。もちろんここも湿度調整されていました。ムーブメントは高価なので、カギがかかるようになっていました。
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私がお邪魔した時は、Fig. 1-7のようなドールハウス形のオルゴールの組み立てがされていました。大きな部品や、細かい精度の高い部品は熊野さんが製作され、金具の取り付けやガラスのはめ込みなどを、皆さんで分担してやられていました。 この時は、暑い夏の午後でしたが、ご挨拶の後は皆さん黙々と作業されていたのが印象に残っています。なんだか、完成品の受取と見学でお邪魔しているとはいえ、残りの半分は観光で来ている私などは、なんだか皆さんの仕事ぶりに圧倒され気味でした。
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Fig. 1-7
木の種類によってこんなに色が違う
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Fig. 1-8
黙々と作業される工房の方々
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この部屋の隣に、熊野氏のデザイン室?があり、お客さんから請けた注文が、すべて図面で保管されていました。「末永く使って欲しいので、故障/破損した時にも修理が可能なように」ということで、「私が生きている限り保証つき、ですよ」とおっしゃる熊野さんには、長く使えるモノ作りへの想いが込められている気がしました。 技術屋の端くれとして、一度は自分の作った製品について、お客さんの前で「長く使っていただけるなら、一生保証します」なんて言ってみたいものだ、とその時つくづく思いました。
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「別の顔」といっても悪いことをしているわけではなくて…熊野さんは「音楽を楽しんでもらう」という理念の元に、オルゴール造りをされている(と言われた、と記憶していますが…)のですが、音楽を楽しんでもらうのには、何も手段が一つではありません。 ここの写真に写っているパフォーマンスする熊野さんの素顔は、「音楽を楽しく」そのものだと思います。そう、実は熊野さんのもう一つの素顔は、ストリートパフォーマーでもあったのです。
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Fig. 2-1
バンドネオンの演奏
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Fig. 2-2
操り人形もこの通り
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Fig. 2-1の、アコーディオンにも似た「バンドネオン」、Fig. 2-2の操り人形、Fig. 2-3の風船細工(というのでしょうか?)と、どれをとっても趣味(半ば本業のようですが)でやっているとは思えない、技の数々。 Fig. 2-4の干してある衣装は、従業員の皆さんとパフォーマンスする際の物だそうです。あの黙々と仕事をしていた皆さんが、お祭りになると変身して、熊野さんとともに仙台市のイベントなどで出演しているそうです。 一度、皆さんがこの衣装を着て写っている写真の年賀状をいただきましたが、本当に楽しそうでした。
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Fig. 2-3
手先が器用だとこんな風船細工も…
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Fig. 2-4
メンバーとパフォーマンスする時の衣装
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あまりにうまいので、「どうやったら、そんなにいろいろできるようになるんですか?」と(自分がやるわけでもないのに)お聞きしてみると、「いやぁ、元来器用なんですよね。面白いと思うことは、大体何でもできてしまう。」というお答えが返ってきました。そりゃ、確かに器用でなくては、箪笥職人は勤まらないでしょうけど、それだけなんですか、熊野さん? 私なんか「これ面白い」と思ってがんばっても、大概、中途半端になってしまうのに。「面白がったら、できてしまう」のも才能のひとつなんだろうなぁ、会社にもそういう人、いるしなぁ…と妙に納得してしまう私でありました。 この後、注文していたオルゴールを受け取り、仙台の奥座敷、作並温泉に1泊して帰りました。
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