□ H13年12月期 A-20  Code:[HH0203] : 給電線とアンテナが異なるインピーダンスの場合の、VSWRの計算
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2022年
12/31 12月期問題頁掲載
09/01 08月期問題頁掲載
05/14 04月期問題頁掲載
H1312A20 Counter
無線工学 > 1アマ > H13年12月期 > A-20
A-20 特性インピーダンスが50 [Ω]の給電線に放射抵抗が36 [Ω]のアンテナを接続したとき、電圧定在波比(VSWR)の値として、最も近いものを下の番号から選べ。
0.7
1.4
1.7
2.4
6.1

 私は電話級を取った頃、「SWRは1に近いほどいいんだ」と丸暗記していました。今でもアンテナを調整する時、それ以外のことはあまり考えません。それで電波は飛びますし、無線機が壊れることもありません。でも、そもそも給電線に立つ「定在波」とは何なのか、というところから始めると、アンテナ系の動作が「現象論」ではなく、ちょっぴり「理詰め」で語れるのではないでしょうか?

[1]そもそも、定在波って何だ?

 「定在波って何だ?」と行く前に、まず、伝送線路(平たく言えばケーブル・フィーダー)には、送信機からアンテナに向かう「進行波(問題では「入射波」と記されることもある)と、アンテナから送信機に戻ってくる「反射波の2種類の波(エネルギーの流れ)が行き交っていることを考えます。
Fig.HH0203_a 進行波・反射波・定在波
Fig.HH0203_a
進行波・反射波・定在波
 それを絵にしてみたのがFig.HH0203_aです。この絵は、縦軸が電圧で横軸が波の進行方向の空間的位置を、左上から下の方に、また、右上から下の方に時間経過を書いています。なお、この線路の損失は考えません。本当は動画で見るともっと分かりやすいのですが、技術がないので、こんな静止画で勘弁してください。
 右側に波を全反射する反射端があって、緑色の進行波と青い反射波が流れています。ちなみにこの反射端は(後で述べる)反射係数が-1で、実際の回路で言うと「短絡」になります。
 図中のTは流れている単一周波数正弦波の周期で、t=0においては、左上のような状態になっているものとします。この状態では、入射波と反射波を合成した赤色の「定在波」(今はこういう名前の波だ、と思って下さい)は、双方の振幅がどの場所でも絶対値が同じで負号が逆なので、まっ平らになります。
 図はT/8ごとの様子を書いていますが、赤の「定在波」に着目してみると、t=T/4とt=3T/4の時に振幅が最大に、t=0とt=T/2の時にゼロになります。また、特徴的な振幅の「位置」に着目してみると、常に振幅がゼロの点と大きく振れる点があり、それらの点は移動していません。これらをそれぞれ「」と「」といい、振幅の分布が動かないために「定在波」というわけです。
 つまり、定在波とは「進行波と反射波が干渉してできる、節や腹が動かない振幅の分布」ということになります。ここで気をつけたいのは、定在波は進行波と反射波の電圧(電流もある)を足した「振幅の分布の形」をいうのであって、進行波や反射波のように、エネルギーを運ぶ波ではありません。同じ「波」という語なので、紛らわしく直感的ではありませんが、それは、この後にもっと一般的な場合について調べる際に、この「波」が正弦波でないことからも分かります。

[2]一般的な定在波(反射係数が±1でない)はどうなっているのか?

 上では、反射係数が-1(短絡の全反射)という特別な例を扱いました。ちなみに、反射係数が+1(開放)の全反射でも、定在波の腹と節の位置が逆になるだけで振る舞いは同じです。普通、負荷が「開放」や「短絡」の状態はVSWRは∞ですから、何らかのアンテナを繋いでこんな状態になることはまずありません。
 では、反射係数が±1以外の値を取った時はどうなるでしょうか? 反射係数γは一般的に複素数ですが、ここではそんなことは気にせず考えてみます(γが複素数になるのは、反射の際に位相がずれることを考慮に入れるためです)。ここでも無損失な伝送線路を仮定しますが、損失が大きくない限りは以下に述べる定性的な特徴は、我々がアンテナとリグを繋ぐケーブルの中で起こっていることとほとんど変わりありません。
 Fig.HH0203_bのように、長さがL [m]で特性インピーダンスがZ0 [Ω]の伝送線路(ケーブル)にZL [Ω]の負荷を繋いで、反射係数がγであったとします。
 ここで、γの大きさは、「負荷」としてアンテナや抵抗等の受動素子を接続している限りは0≦|γ|≦1になることに注意します。この時の定在波の振幅分布Vsを求めます。
 負荷に入射する進行波の振幅をVf [V](線路が無損失なので、実はどこでも振幅は同じ)として、負荷を接続した点を原点に取り、電源に向かう方向(要するに反射波が進む方向)を正に取ると、原点からの位置d [m]における定在波の振幅Vs [V]は次式で表されます。
Fig.HH0203_b 任意の反射係数の時
Fig.HH0203_b
任意の反射係数の時
 Vs(d)=Vf√[1+|γ|2+2|γ|cos(2βd−φ)] …(1)
となります(試験対策ではこの式は暗記する必要はありません)。
 この式で、γは複素数なので、その大きさを求めるために|γ|としていますが、本質的には反射係数の大きさです。βは[1]で挙げたβと同じ(=2π/λ)です。また、cosの項で、φはこのγの位相角を意味しますが、負荷が決まっている限り変わらない量で、ここでは議論の本質ではないので、「そんなものがあるんだ」程度に考えて下さい。
 この関数が何を意味するのか考えてみます。まずは関数の形をよく見て下さい。特に、√の中です。定数の1と|γ|はdによって変化しない定数です。また、cosの項は位置によってその値が正弦波的に変化します。従って、この√の中は、直流分に交流分が重畳したようなものになっています。それを√するので、関数の形としては、Fig.HH0203_bの波形のようになります。
 (注意して描いたつもりなので)この波形をよく見て下さい。正弦波ではありません。値の小さい方が曲率が小さくなって(すなわち尖って)います。この波形で、極値(最大値と最小値)はどうなっているでしょうか? すなわち、定在波の一番振幅の大きな位置と小さな位置での振幅はどうなっているか、という問いです。
 それを考えるために、右辺の√の中にあるcosの項に着目します。Vsが最大になるのは、cos(βd−φ)が最大の1になる時で、その時の値Vmax [V]は、
 Vmax=Vf√(1+|γ|2+2|γ|)
   =Vf(1+|γ|) …(2)
となります。逆に、最小値Vmin [V]は、cos(βd−φ)が最小の-1になる時で、
 Vmin=Vf√(1+|γ|2−2|γ|)
   =Vf(1−|γ|) …(3)
となります。
 整合が完全に取れていて|γ|=0の時は、(2)と(3)からmax=Vmin=Vfとなりますので、Fig.HH0203_bの波形には最大値も最小値もなく、まっ平らになります。また、[1]で見たような完全反射(|γ|=1)の時は、max=2Vf、Vmin=0となり、Fig.HH0203_aの赤色のような波形になることが、数式からも分かります。
 さらに、|γ|=Vr/Vfであることを考えれば、(2)式と(3)式は、
 Vmax=Vf(1+|γ|)=Vf+Vr …(4)
 Vmin=Vf(1−|γ|)=Vf−Vr …(5)
となります。これも、Fig.HH0203_aの図から、定在波の振幅が入射波と反射波の和であることから、定性的にも理解できます。
 放送局やレーダーなど、大出力を扱う送信所では、ケーブルの耐電圧を整合状態で設計してしまうと、VSWRが上昇した時に耐電圧を超えてしまうことになります。この他にも、電力増幅段の部品の絶縁破壊など、危険を伴うので、VSWRを監視していて、一定以上になったら出力を止めてしまう保護装置が付いています。

[3]電圧定在波比(VSWR)とは何か、どうやって求めるか

 さていよいよ、SWRの話に移ります。よくアンテナのSWRと言っているのは、正確には「電圧定在波比」であるVSWRのことです。
Fig.HH0203_c 電圧定在波比と様々な表現
Fig.HH0203_c
電圧定在波比と様々な表現
 VSWR(値をρとします)は、定在波の最小値Vminに対する最大値Vmaxの比、すなわち、
 ρ=Vmax/Vmin …(6)
ということです。上で見た((4)式・(5)式)ように、VminとVmaxをそれぞれγで表したものを代入すると、
 ρ=(1+|γ|)/(1−|γ|) …(7)
とも表せます。[1]で検討したような全反射のケースでは、|γ|=1になるので、分母がゼロとなってρ=∞となるわけです。
 ですが、通常、反射係数というのは直接測定しません。できないわけではありませんが、他の方法があるので、そちらを手段として使います。
 その手段の第一は電力の測定です。高周波信号は、普通その実時間波形ではなく電力で強度を表します。実時間波形は高周波になると直接、オシロスコープ等で測定できないからです。VSWRは実際には方向性結合器を内蔵したSWRメーターで測定することが多いです。これが測定しているのは進行波と反射波の電力です。進行波電力Pfと反射波電力Prから反射係数を求めるには、以下のようにします。
 |γ|=√(Pr/Pf) …(8)
これを(7)式に代入すれば、電力だけでVSWRが
 ρ=[1+√(Pr/Pf)]/[1−√(Pr/Pf)] …(9)
と求められます。導出だけでは味気ないので、物理的意味付けをしておくと、インピーダンスが変わらなければ、電圧比は電力比の平方根に比例なので、√の中が電力比になっているわけです。
 第二の方法は、伝送線路(ケーブル)のインピーダンスZ0と負荷のインピーダンスZLが分かっている場合、あるいは測定した値から求める方法です。この方法は、電圧定在波だけでなく、電流定在波の検討も必要になるので、式の導出はここでは行ないません(私も教科書を見ないとできません)が、反射係数γは
 |γ|=|(ZL−Z0)/(ZL+Z0)| …(10)
で表されます。これを(7)式に代入すれば、ケーブルと負荷のインピーダンスでVSWRが、
 ρ=ZL/Z0 (ZL>Z0の時) or =Z0/ZL (ZL<Z0の時)  …(11)
となります。但し、この式は、途中で絶対値記号を外しているため、LとZ0がともに実数である場合にのみ成り立ちますので、ご注意下さい。L>Z0の時とZL<Z0の時で分母分子が逆なので、注意が必要ですが、1アマを受けようという方なら、VSWRが1より小さくなることはないので、もし逆にしていても答えが出た時に気づくでしょう。
 まとめると、VSWRは反射係数・進行波と反射波電力・ケーブルと負荷インピーダンスから、以下のように求められます。
 ρ=(1+|γ|)/(1−|γ|) …反射係数 (7)
 ρ=[1+√(Pr/Pf)]/[1−√(Pr/Pf)] …電力 (9)
 ρ=ZL/Z0 or 0/ZL  …インピーダンス (11)
 上記の内容を理解すれば、定性的な記述に正誤をつける問題は解けると思います。また、最近の計算問題では、γの値(複素数)からVSWRを求める問題((7)式の応用)も出ていますが、多くは下の2式(電力とインピーダンス)から求める出題が多いので、これらの式も意味とともに記憶しておく必要があるでしょう。

それでは、解答に移ります。
 (11)式にZL=36 [Ω], Z0=50 [Ω]を代入すればよいのですが、このケースではZL<Z0ですから、
 ρ=Z0/ZL=50/36=1.4
となります。従って、正解はと分かります。分母分子を間違えると、VSWRが1より小さくなるので、気づくと思います。