□ R05年12月期 A-15  Code:[HE0605] : 小電力狭帯域のデジタル通信方式の特性と特徴
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H3512A15 Counter
無線工学 > 1アマ > R05年12月期 > A-15
A-15 次の記述は、アマチュア局が使用するデジタル通信のうち、比較的小さな電力による遠距離通信を目的とし、送信する時間の長さを定めて情報伝送を行う方式(FT8、FT4及びJT65と呼ばれるもの)の、一般的な概要等について述べたものである。このうち誤っているものを下の番号から選べ。
これらの通信方式においては、1回の送信時間は数秒〜1分程度であり、100ミリ秒以下のものは使用されない。
GFSK(Gaussian Frequency Shift Keying)を使用するものは、これ以外のFSKと比べて不要輻射が抑えられる。
これらの通信方式のうち、送受信の時間を同期させて通信するものは、送信側および受信側のコンピュータの時刻が一定の誤差範囲に校正されている必要がある。
これらの通信方式には、前方誤り訂正の機能を持つ物はない。
発射される電波の占有周波数帯幅は、一般には数10〜数100 [Hz]である。

 実は私は、この問題を解くために調べるまで、FT4,FT8といったデジタルモードの通信に関する知識はほぼゼロでした。私と同様にマンションに住む高校の後輩が、年賀状に「FT4で家から年間150カントリーできました。QRPでも結構行けるもんです」と書いてきたのに驚きました。

[1]帯域を狭くすれば低電力で通信ができる

 1アマを取ろうという方なら「同じ送信電力で比べるなら、電話(SSB)より電信(CW)の方がDXに有利」ということを、実際の交信をしてみた「肌感覚」としてもご存知かと思います。ここでは「遠くまで飛ぶ(=遠くの局でも聞きやすい)」ということを、受信信号の信号対雑音比(S/N比)で議論します。
 コンテストやパイル等で、狭い周波数に多数の局が密集して混信が起きやすい場合は除いて、原理的にはFMよりAM(DSB)、DSBよりSSB、SSBよりCWと、占有周波数帯幅が狭い通信方式ほど、同じ電力で送信した場合、受信側のS/Nが高くなります。これは、単位周波数幅あたりのノイズ電力が一定(ホワイトノイズ)と仮定すれば、通信に使う帯域幅を狭くできるモードほど、大きなS/N比が取れるからです。
 なので、CWで交信するのにフィルタの帯域がSSBの時と同じ3 [kHz]もある、とかいう条件では、この恩恵にはあずかれません。
 CWはデジタルモード、とも言えますが、人間が耳で聞いてキーを操作するので、受信側のフィルタをあまり狭帯域にすることもできません。狭くて250 [Hz]程度です。コンピュータを使って、RTTYよりも狭帯域なFSKでデジタル通信すれば、もっとQRPにできるだろう、というのがFT4,FT8,JT65等のデジタルモードの考え方です。
 但し、通信に用いる帯域幅と通信速度はトレードオフの関係にあります。つまり、帯域を狭くするには、通信速度もそれにつれて遅くする必要があります。
 我々が普段WiFiや携帯端末で使用している通信速度は、数十MbpsからGbpsのオーダーで、そのために必要な帯域幅(占有周波数帯幅)も数 [MHz]から数百 [MHz]に及びます。それに対して、この問題に出てくる通信方式は、数十bpsから数百bpsで、桁違いに遅いのです。そのため、送信する情報は、画像や音声ではなく、コールサイン、レポート、グリッドロケータ(GL)等のテキスト(文字)だけです。普通のCWのコンテストでも、"XX0XXX de JO1GXK [BT] ur 599xxxx000n [BK]"でQSO成立なのですから、十分ですね。

[2]まずは特徴と用語

【名前の由来】
 これらの通信方式の名前は、1993年にノーベル賞を(共同で)受賞した物理学者、Joseph Taylor博士(K1JT)、Steven Franke博士(K9AN)に由来します。JTxはJoseph Taylorに、FTxはFranke and Taylor、ということです。

【PCの時刻合わせ】
 この通信は、標準時に同期して行うので、通信を制御するPCは時計をUTC±1秒以内に合わせておく必要があります。

【同期通信】
 上記で合わせた時刻に従って、0秒/30秒 又は 15秒/45秒に送受信します。つまり、パケットにエラーがなければ(後に述べるようにエラーが訂正された場合も含む)、最短1分程度で交信が終わる、ということです。

【プロトコル】
 プロトコルとは、通信における手順のことです。人間同士の通信でも、交信手順はある程度法律で規定されています。

【変調方式】
 殆どのデジタルモードがFSKを使用しています。同じFSKのRTTYでは、変調周波数は0と1の2値を表現できれば良いので、2種類ですが、4種類あれば22で一度に2bit、8種類あれば23で一度に3bit送れます。この意味は、例えば、変調周波数が100 [Hz], 120 [Hz], 140 [Hz], 160 [Hz]の4種類があれば、
 100 [Hz] … 00
 120 [Hz] … 01
 140 [Hz] … 10
 160 [Hz] … 11
というように割り当てて、2bitを表現できる、ということです。同じ帯域内に多数の周波数(変調波)を押込めれば、もっと多くのビットを表現できますが、受信側ではその分、僅かな周波数差を識別する必要が出てきますので、混信やノイズによるエラーレートの上昇とトレードオフになります。
 n種類の周波数でFSKをかける方式を、nFSKといい、4FSKや8FSK等と表記します。

【シンボル・シンボル長】
 シンボルというのは、一回の変調のことで、シンボル長は1シンボルで送れるビット数又はそれに要する時間です。上の4FSKの例で言えば、一度の変調で送る2bitや要する時間を、8FSKで言えば3bitや要する時間を指します。
 また、1秒間に送るシンボル数をボーレートと言います。

【誤り訂正方式 FEC】
 この方式の通信は、パケット通信です。データの固まりを一度に送信しますが、そのデータの中に、伝送の誤りを検出、訂正する符号を混ぜて送ります。受信側ではこの符号を元に誤りの位置を検出し、訂正します。
 このように、パケットの中に検出、訂正符号を含ませて送る方法を前方誤り訂正(FEC:Forward Error Correction)方式と呼びます。

【FT4やJT65に使用される誤り訂正符号】
 FECの誤り訂正方式にも様々な物があり(ディープな数学が出てくるので私にはその個々の動作原理は説明できませんが)ます。FT4やFT8で用いられているのは低密度パリティ検査符号(LDPC:Low Density Parity-check Code)と呼ばれるもの、JT65ではリードソロモン(Reed Solomon)符号と呼ばれるものが使用されています。
 特にリードソロモン符号は、地デジ(ISDB-T)放送、HDD,CD,DVD等の記録メディア、QRコード等に広く使われているものです。

【限界S/N】
 限界S/Nとは、パケットがエラーになる確率が50 [%]の時のS/N比を言います。値に付いている負号(マイナス)は、信号よりノイズの方が大きい場合でも受信可能なことを示しています。

【ペイロード】
 ロケット等では、衛星や荷物等、宇宙に「本来送りたい正味の容量」の意味ですが、データパケットの場合は、通信に必要な同期信号や上記の誤訂正符号などを除いた「本来送りたいデータの数」を言います。

【GFSK】
 FSKの頭に付いているGはGaussianのGです。FSKは例えば周波数f1 [Hz]から異なる周波数f2 [Hz]に遷移する時、その「継目」の瞬間、変調信号が不連続になったり波形(電圧)の傾きが急変したりするので、そこで変調波の帯域が広がる原因になります。
 そこで、ガウシャンフィルタと呼ばれる(低域フィルタの一種の)フィルタを変調信号に挿入し、平たく言えば「波形の急変を滑らかにして」帯域の広がるのを抑える方式です。

[3]FT4,FT8,JT65の特徴まとめ

 以下に、FT4,FT8,JT65の特徴を簡単にまとめておきます。
モード 変調 帯域幅
[Hz]
送信時間
[s]
ボーレート
[Baud]
限界S/N
[dB]
誤り訂正方式
FT4 4GFSK 83.3 5.04 20.833 -17.5 LDPC
FT8 8GFSK 50.0 12.6 6.25 -21.0 LDPC
JT65 65GFSK 177.6 46.8 2.692 -25.0 Reed Solomon

 これらの方式の他にも、移動する物体(月等の衛星、流星)の反射波を使う通信用に、ドップラー効果に強い方式等、様々な方式が開発されています。

[4]低速変調でもPCの処理能力は必要

 実際に運用するにあたっては、リグの音声出力をPCのマイク端子に、PCの音声出力をリグの音声入力(マイク)端子に入れます。PCへの要求仕様としては、音声が48 [kHz], 16bitサンプリング、CPUは速いほど良い、とされています。
 処理能力が問われるのは、特に受信の場合で、個々の局が占有する周波数帯幅は、上のような狭帯域ですが、通常、受信帯域(SSBなら3 [kHz])内に入ってきた全ての信号をデコード(復号化)するので、「低速変調の通信だからPCも昔の遅い物でいい」等と思っていると、パイルに勝てなかったりします。

参考文献
・WSJT-X 2.2ユーザガイド Joseph H Taylor (JA7UDE大庭氏訳) 2020
・いまさら聞けない FT8 運用の始め方と応用 JF1RPZ/JN3TMW 出田氏(KANHAM 2022講演)
・「パソコンを接続して運用することのできるデータ通信等の諸元について」www.jarl.com 2023

それでは、解答に移ります。
 1…100 [ms]では僅かなビット数しか送れませんので正しい記述です。
 2…GFSKは変調波をガウシアンフィルタに通し、通信に不要な帯域外の成分を減衰させますので正しい記述です。
 3…これらの方式では送受信の時刻同期が必須になりますので正しい記述です。
 4…これらの方式では、全て前方誤り訂正方式を使用しているので誤った記述です。
 5…発射電波の占有周波数帯幅は[3]の表のようになりますので正しい記述です。
となりますから、正解(誤った記述)はと分かります。