□ R05年04月期 A-16  Code:[HE1108] : コモンモード電流によるアンテナケーブルや電源線からの不要放射の対策
インデックス
検索サイトから来た方は…
無線工学の基礎 トップ

以下をクリックすると、元のページが行き先に飛び、このウインドウは閉じます

 ■ 無線工学を学ぶ
 (1) 無線工学の基礎 
 年度別出題一覧
  H11年 4月期,8月期,12月期
  H12年 4月期,8月期,12月期
  H13年 4月期,8月期,12月期
  H14年 4月期,8月期,12月期
  H15年 4月期,8月期,12月期
  H16年 4月期,8月期,12月期
  H17年 4月期,8月期,12月期
  H18年 4月期,8月期,12月期
  H19年 4月期,8月期,12月期
  H20年 4月期,8月期,12月期
  H21年 4月期,8月期,12月期
  H22年 4月期,8月期,12月期
  H23年 4月期,8月期,12月期
  H24年 4月期,8月期,12月期
  H25年 4月期,8月期,12月期
  H26年 4月期,8月期,12月期
  H27年 4月期,8月期,12月期
  H28年 4月期,8月期,12月期
  H29年 4月期,8月期,12月期
  H30年 4月期,8月期,12月期
  R01年 4月期,8月期,12月期
  R02年 4月期,9月期,12月期
  R03年 4月期,9月期,12月期
  R04年 4月期,8月期,12月期
  R05年 4月期,8月期,12月期
  R06年 4月期,8月期,12月期
 分野別出題一覧
  A 電気物理, B 電気回路
  C 能動素子, D 電子回路
  E 送信機, F 受信機
  G 電源, H アンテナ&給電線
  I 電波伝搬, J 計測

 ■ サイトポリシー
 ■ サイトマップ[1ama]
 ■ リンクと資料

 ■ メールは下記まで



更新履歴
2025年
03/31 R06/12月期問題頁掲載
03/31 R06/08月期問題頁掲載
03/31 R06/04月期問題頁掲載
03/31 R05/12月期問題頁掲載
03/31 R05/08月期問題頁掲載
03/31 R05/04月期問題頁掲載
H3504A16 Counter
無線工学 > 1アマ > R05年04月期 > A-16
A-16 次の記述は、無線局からの電波発射が原因で発生する、不要発射と対策例について述べたものである。[ ]内に入れるべき字句の正しい組合せを下の番号から選べ。なお、同じ記号の[ ]内には同じ字句が入るものとする。
問題図 H3504A16a
Fig.H3504A16a
問題図 H3504A16b
Fig.H3504A16b
(1) 図1において、送信機出力が同軸ケーブルによりアンテナに供給されるとき、アンテナ給電部における平衡・不平衡の変換が不適切であると、給電部に電位差が生じ[A]電流が破線のようにループ状に流れる場合がある。[A]電流は同軸ケーブルの芯線と外皮導体を流れる電流の向きが[B]であり、同軸ケーブル等から不要電波を放射するため、周囲に電波障害を与えることがある。
(2) これを防止するには、アンテナ給電部における確実な平衡・不平衡変換及びインピーダンス整合、同軸ケーブルや給電部金属の劣化点検、送信機等のアンテナコネクタ部への[A]フィルタの挿入等が有効である。
(3) また、図1の一点鎖線で示すように、[A]電流がロング・ワイヤ・アンテナを流れる電流のように、送信機用電源から引込線へ流出し、不要電波を発射することがある。これを防止するには、環状フェライトコアに電線を[C]のように巻いたフィルタを、送信機用電源のAC側(図1の・の位置)に挿入することが効果的である。

ノーマル・モード 同相 図2
ノーマル・モード 逆相 図2
コモン・モード 同相 図2
コモン・モード 逆相 図3
コモン・モード 同相 図3

 高校の頃に100W局の開局で、インターフェアで苦労した経験が今の私の生業になっていますが、世の中の電子機器の開発で問題になる放射ノイズも、多くがこの問題でキーになっているコモンモード電流が原因です。対策しても様々な要因からゼロにはできず、油断した設計をするとすぐに現れて、強い電磁放射を起こすため、設計段階から十分な対策が必須です。アマチュアでは、この問題のように、負荷(=アンテナ)と給電線の平衡−不平衡変換の不完全が原因の一つですが、それにとどまりません。対策も、アンテナケーブルにだけ施せばよい、というのは稀なケースです。
 ここでは、そもそもコモンモード電流とは何か、を調べてから、発生原理に適した対策を考えます。

[1]コモンモード電流とは

 まず、コモンモード電流とは何か、を考えます。物理法則において、最も重要なのは保存則、つまり「ある物理量が保存される」という物ではないでしょうか。エネルギー、運動量、質量…物理の世界は「○○保存則」でいっぱいです。

(1) 本質は往復の電流のアンバランス
 初めから物理法則の話で申し訳ありませんが、コモンモード電流を考える際に重要なのは、「電荷保存則です。通常の電気の世界では、この保存則を言い換えると、往った電流は同じ量だけ戻ってくる、ということになります。ここで強調しておきたいのは、電荷保存は物理法則なので、設計者がベテランか初心者か、とか、部品が高いか安いか、ということには関係ありません。誰が、どんな部品を使って設計しても、出て行った電流は必ず同じ量が戻ってくるのです。
Fig.HE1108_a コモンモード電流のイメージ
Fig.HE1108_a コモンモード電流のイメージ
 もう少し具体的に考えるために、例えばLANケーブルでPC(信号源)とハブ(負荷)を繋ぐことを考えてみます。LANケーブルの中身はツイストペア線ですが、ここでは単純に平行二線と考えます。
 理想の状態は、Fig.HE1108_a左のような、信号電流が往復の経路でバランスしている(大きさが等しく向きが逆)状態です。この状態では、正相側(赤い線)と逆相側(青い線)で、電流の向きは逆ですが大きさに大小はなく、電荷保存が成り立っています。
 そもそも、上で述べたように、「出た電流はどのみち同量が帰ってくる、というなら、何の問題もないじゃないか」と思うわけですが、往復の電流経路には、電流のバランスを崩す方向に働く回路や構造が数多あって、それが、同図中のようなアンバランス状態を引き起こします。この「バランスを崩すもの」は後で議論するとして、ここでは往復の電流をそれぞれ以下のように定義します。
 T=T+I …(1) 行きの電流
 T=T−I …(2) 帰りの電流
ここで、I>0としますが、この往復の電流の差分は、
 T−T=2T …(3)
となります。この差分の2Tのことを、コモンモード電流、と呼びます(*1)。(1)、(2)式で電流の向きについて考えてみます。(1)式は「行き」の経路で、符号が正ならば右向きですから、コモンモード電流は+T>0で右向きになります。一方、「帰り」の経路では左向きが正ですから、−T<0で、これも右向きになります。つまり、この2本の線に流れているコモンモード電流の向きは、両方とも同じ向き(右向き)ということになります。
 また、Tはノーマルモード電流(英文書籍等では「ディファレンシャルモード」と呼ぶものもある)と呼びます。殆どの回路ではこのノーマルモード電流が回路の動作に寄与します。
 さて、上で述べた「物理法則なので絶対」というのは、この差分(=コモンモード)が、電流バランスを崩すものによって、どこか別の経路を戻ってきている、ということを示唆しています。そうでなければ、帳尻が合わないからです。ここからは、その「原因」を見て行きます。

(*1)コモンモード電流をIとする定義もあります。ここでは、差分全てをコモンモード電流とします。

(2) 原因その1…平衡−不平衡変換の不完全性
 半波長ダイポールや八木アンテナ等の平衡給電型のアンテナと、不平衡モードの同軸ケーブルを直接接続(その逆も)してはいけないこと、このような場合にはバラン(バルンともいう)をアンテナと同軸ケーブルの間に挿入することは、H2008A21等の問題で出題されています。
 ところが、このバランも、例えば内部でトランスの巻線の巻き方が悪いとか、巻線間の浮遊容量が大きい等の理由で、平衡−不平衡機能が十分でないことがあります。
 H2008A21の解説でも述べていますが、このようなバランに同軸ケーブルで給電すると、本来、芯線を流れる電流Tが外導体の内側を流れる電流T−Tと等しくなるべきところが、Fig.HE1108_bのように、外導体の外側を流れる電流T−Oが生じます。
 このT−Oこそが、コモンモード電流に等しく、信号が高周波の場合は、これが空間に放射されることになります。
Fig.HE1108_b 同軸ケーブルからの放射
Fig.HE1108_b
同軸ケーブルからの放射
 上の文章を式で書くと、
 T−T−I=T−O …(4)
ということになります。つまり、この同軸ケーブルのバランの例では、送信機にとって、戻ってくる電流の大半は同軸ケーブル外導体の内側を戻ってくるのですが、バランで変換しきれなかった分が、コモンモードとして外導体の外側を戻ってくる、ということです。行きの電流と戻りの電流の収支は(4)式から、
 T−(T−I+T−O)=0 …(5)
となるので、コモンモード電流まで合わせて考えれば収支は合っています(電荷保存則は崩れていない)が、コモンモード電流が空間に放射される(ケーブルから電波が出入りする)という問題が生じます。
 では、ケーブル外導体の外側から電磁波として放射された電流は、どこを戻ってくるのか、と言うと、無限遠を通って、送信機のGNDに戻ってきます。つまり、コモンモード電流が生じている、ということは、ケーブルがアンテナとしても動作している、ということになります。

(3) 原因その2…往復の電流経路の不一致
 コモンモード電流というのは、「意図した経路を流れてくれない電流」と言い換えることもできます。
Fig.HE1108_c グランド電流
Fig.HE1108_c
グランド電流
 Fig.HE1108_cのように、モータードライバとモータがケーブルで接続されているとします。モータードライバはインバータで構成されているとして、ドライブ電流に加え、パワエレ回路特有の広帯域なスイッチングノイズ電流も含んだ電流をケーブルに流そうとしています。
 モーターは金属ケースで、金属フレームに固定されているとします。無論、モータ内の巻線はケースから絶縁されて(浮いて)いますが、ケースは金属で、金属フレーム(多くの場合回路のGNDと同電位)に固定されているので、巻線とGND間には浮遊容量Cが生じます。
 インバータの動作周波数がkHzオーダーであっても、スイッチングノイズは数10MHzに及ぶことは珍しくありません。浮遊容量はその名の通り「容量」ですから、高周波のノイズ電流ほど通りやすくなります。
 すると、ドライブ電流のうち、高周波のノイズ電流は、インダクタンス分の多い(=インピーダンスの大きい)ケーブルを戻ってくれず、面積が広く流れやすいGND(フレームの金属)を戻りたがるようになります。いわゆるグランド電流(地電流)がこの系に流れることになります。
 ケーブルには行きと戻りでキャンセルしない正味T(右向き)の電流が、GNDにはこれと等しい左向きの電流がそれぞれ流れます。この電流が「戻ってほしい経路(ここではケーブル)を戻ってくれないコモンモード電流」ということですが、厄介なことに、この電流経路がループアンテナを形成します。そのため、この系も、このループから電磁波放射が起こることがあります。
 ケーブルに接続されているものが無線機やアンテナでなくても、コモンモード電流によって電磁放射が起こる例です。

[2]コモンモード電流の対策

 さて、ここからはこのような厄介なコモンモード電流に施す対策を考えて行きます。なお、商用電源に繋がる装置のコモンモード対策を考えるにあたり、Fig.HE1108_bやFig.HE1108_cのいずれの場合でも、信号線だけでなく、商用電源側にも対策を考える必要があります。
 その理由は、コモンモード電流というのは、常に装置から外側に流れ出る経路を探しており、AC電源ラインもその例外ではないからです。

(1) バラン(バルン)
 バランについてはH2008A21で例を挙げています(強制バランと呼ばれるものです)が、変換できる周波数範囲や耐電力、不平衡度(完全に平衡−不平衡変換できない成分)について、注意して選定します。
 無論、バランが完全な物でもコモンモードが全てなくなるわけではありません。例えば、ダイポールアンテナであっても、左右のエレメントが地面に対して極端に非対称な張り方になっていたり、片側だけ建物に近付いていたりすれば、そもそもアンテナ(負荷)が不平衡になってしまうので、コモンモード電流が生じ得ます。

(2) コモンモードフィルタ(コモンモードコイル)
 コモンモード電流を発生させないためには、上で述べたような「設計上の配慮」が、まず必要ですが、実際に電子機器を作ってみると(特にプリント基板等では)コストやサイズの制約等から、注意して作っても、完全にゼロにはできません
 そうなると、発生してしまったコモンモード電流に対し、何かしらの対策部品を入れて装置から外への流出を阻止する必要があります。このような時に使うのが、コモンモードフィルタ(以下、CMF、コモンモードコイル、コモンモードチョークと呼ぶこともある)です。
 コモンモード電流を阻止するには様々な手段がありますが、最もよく使われているのが、フェライトコアを使ったCMFでしょう。
 Fig.HE1108_dにはその例が示してありますが、AC電源ラインによく使われるのが、この図の左の「分割巻き」と呼ばれる方法でトロイダルコアに単線を巻いたCMFです。同図には、上下に異なる巻き方をしたものを掲げています。2本の線に流れるコモンモード電流は、向きが同じで大きさも同じであることに注意して見ると、この図のうち、巻き方Aの方は上側の巻線が作る磁力線(青矢印)と下側の巻線が作る磁力線(赤矢印)の大きさが同じで向きが逆になります。
 ということは、コアの中で両者が作る磁力線がキャンセルされてしまい、巻き方AではCMFにならないことが分かります。
Fig.HE1108_d フェライト材を使ったCMF
Fig.HE1108_d
フェライト材を使ったCMF
 一方、巻き方Bでは、上側の巻線が作る磁力線(青矢印)と下側の巻線が作る磁力線(赤矢印)の大きさが同じで向きも同じになります。
 ということは、コアの中で両者が作る磁力線は強さが2倍になり、この磁力線がフェライトの物性(低周波では誘導性リアクタンス=インダクタに、高周波では抵抗=熱損失に)の影響を受けて、フィルタとして動作します。
 ケーブルに用いるCMFとしては、Fig.HE1108_d右上のような「フェライトビーズ」を使った物もあります。2本の単線をこのビーズの穴に通し、この2本の線にノーマルモード電流(大きさが同じで向きが逆)とコモンモード電流を流した時の違いを見てみます。
 ノーマルモード電流を流すと、赤い方の(画面を奥の方に進む)電流とその逆の青い方の電流が作る磁力線は、コアの中で打ち消しあってしまうので、ノーマルモードに対してはこのビーズは何も影響しません
 一方、コモンモード電流を流すと、2本の同方向の電流が作る磁力線は、コアの中で重ね合わされて2倍になるので、この磁力線がフェライトの物性の影響を受けて減衰します(上記、巻き方Bと同じ理屈)。
 通常、回路信号やモーター等のパワーデバイスを動作させる電流はノーマルモード電流ですから、このフェライトビーズにノーマルモードとコモンモードが重畳した電流を流すと、コモンモードだけが除去される、という機能が実現するわけです。つまり、フェライトビーズにケーブルを通しただけでCMFになる、ということです。
 但し、現実には、コモンモードノイズなら何でも効く、というわけではなく、フェライトにも応答可能な周波数範囲があるので、問題となるノイズの周波数帯に合わせて材質や形状を選定する必要があります。

それでは、解答に移ります。
 この問題は、今回初めて出題されたものですが、上記の内容を元に吟味して行けば、正解に辿り着けます。
…アンテナの給電部の平衡−不平衡変換が完全でない場合に生じるのは、コモンモード電流です。
…コモンモード電流は(2本の導体の場合)同じ向きに流れる同相電流です。
…Fig.HE1108_dで見たように、問題の図2の巻き方ではフィルタになりませんので図3のように巻きます。
従って、解答はと分かります。