□ R04年08月期 A-04  Code:[HB0305] : トランスを用いたインピーダンス整合の原理、最大電力伝達の計算
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09/01 08月期問題頁掲載
05/14 04月期問題頁掲載
H3408A04 Counter
無線工学 > 1アマ > R04年08月期 > A-04
A-04 次の記述は、図に示す変成器Tを用いた回路のインピーダンス整合について述べたものである。[ ]内に入れるべき字句の正しい組合せを下の番号から選べ。
(1) Tの二次側に、RL [Ω]の負荷抵抗を接続したとき、一次側の端子abから負荷側を見た抵抗Rabは、Rab=[A][Ω]となる。
(2) 交流電源の内部抵抗をRG [Ω]としたとき、RLに最大電力を供給するには、Rab=[B][Ω]でなければならない。
(3) (2)のとき、RLで消費する最大電力の値Pmは、Pm=[C][W]である。

2RG
2RG
G
G
問題図 H3408A04a
Fig.H3408A04a

 今回(R04年8月期)初めての出題となります。トランスは今迄あまり出ていませんでしたが、今後もいろいろ出題される可能性があります。
 この問題は、2つの大きなテーマを含んでいます。まず一つは、電源側から(理想)トランスを通して負荷がどう見えるか、ということ。もう一つは、内部抵抗がゼロでない電圧源(=電源)から最大電力を引き出す方法です。後者は、ずばりインピーダンス整合の問題です。トランスの問題というよりは、高周波を扱う無線屋としてはこちらの方が重要かもしれません。
 両方とも、公式を覚えていれば簡単ですが、「どうしてそうなるのか」を一度チェックしておくことをお勧めします。
 なお、この問題には、トランスの効率(損失)についての但し書きはありませんが、何も書かれていなければ、損失のない理想トランスとして扱ってよいでしょう。

[1]理想トランスは電力を100%伝達する

 トランスという部品は、電力を伝達する受動部品です。実在するトランスは鉄損(磁性体の損失)や銅損(巻線の抵抗・表皮効果等による損失)、磁束漏れによる損失がありますが、ここでは一次側に入った電力が損失なく二次側に出てくる、理想トランスを考えます。
Fig.HB0305_a トランスの働き
Fig.HB0305_a
トランスの働き
 Fig.HB0305_aの左のように、一次側の巻き数がn1、二次側の巻き数がn2、一次側にかかる電圧と流れ込む電流がそれぞれv1 [V]とi1 [A]であるとします。
 二次側にはRL [Ω]の負荷が繋がり、この両端の電圧がv2 [V]、電流がi2 [A]流れているとします。
 まず、二次側の出力電圧v2は以下のように求められます。
 
 ここで、トランスをもう少し抽象化して、Fig.HB0305_a右のように、電力を伝えるブラックボックスとして捉えてみます。かかる電圧や電流は、上で定義したのと同じです。なお、ここでは、電力は一次側から二次側に流れるものとします。電力技術の用語でいうと電力の流れを「潮流」といいます。
 トランスは無損失ですから、一次側に流れ込む電力p1 [W]と二次側から流れ出る電力p2 [W]は等しくなりますので、
 
が成立ちます。ここで、p1とp2はそれぞれ、
 
となります。(2)式から、(3)式=(4)式、さらにv2に(1)式を代入すると、i2が巻数比とi1で表せて、
 
と求められます。(5)式と(1)式を見比べてみます。巻数比をN(=n2/n1)とすると、二次側の
 ・電圧はN倍に
 ・電流は1/N倍に
なることが分かります。つまり、一次側の電流×電圧が、その積(=電力)を変えずに二次側に出てくる、というのが(理想)トランスの働きです。そのため、トランスは英語でtransformerと言いますが、まさに縦長の長方形を(面積を変えずに)横長に変えるような、電力のform(形)をtrans(変える)ものなのです。

[2]二次側に繋がった負荷を一次側から見るとどう見えるか

 ここからは、一次側に電源(交流電圧源)を繋いだとして、Fig.HB0305_a左の二次側の負荷RL [Ω]が電源からいくらに見えるのか、を考えます。当然のことながら、N≠1であれば、一次側と二次側では、電圧と電流比が違いますから、電源からみた負荷はRLには見えません。では、いくらになるでしょうか、という問題です。
 まず、(1)式と(5)式をv1とi1について解いておくと、
  
となります。次に、二次側の回路について着目し、RLには電流i2が流れていて、その両端電圧がv2なので、
 
Fig.HB0305_b トランスの向こうの負荷
Fig.HB0305_a
トランスの向こうの負荷
となります。同様に、一次側についても、求めたいRXに電流i1が流れていて、その両端電圧がv1なのだと考えれば、
 
ここで、(9)式のv1とi1に(6)式と(7)式をそれぞれ代入すると、
 
となりますが、この式に現れる(v2/i2)は、(8)式のRLに他ならないので、最終的には、
 
となります。つまり、一次側から見た負荷は、実際の負荷に比べ、抵抗値が巻数比の二乗分の一になるということです。
 例えば、巻数比がN=2で、RL=100 [Ω]、一次側電源電圧の実効値v1=100 [V]であれば、二次側はv2=200 [V]になってi2=2 [A]が流れます。つまりRLでは400 [W]を消費していますが、一次側はそれと等しい電力を供給するため、i1=4 [A]が流れます。電源から見れば、100 [V]を出力して4 [A]流れるので、25 [Ω]、つまり負荷抵抗の1/22が繋がっているように見える、というわけです。

[3]内部抵抗のある電源から負荷の最大電力を得るには

 ここからは、電源として内部抵抗RS [Ω]を持つ電源から、最大電力を引き出すには、負荷抵抗RL [Ω]をいくらにすれば良いか、を考えます。説明には微分を使いますが、試験や実験等の現場では、いちいち微分していられないので、結果を覚えておくことになるでしょう。
Fig.HB0305_c 最大電力伝達の問題
Fig.HB0305_c
最大電力伝達の問題
 Fig.HB0305_cのように、理想電圧源(電圧V [V])と内部抵抗RSが直列になった電源を、負荷抵抗RLに接続します。内部抵抗RSは一定値だとして、負荷抵抗RLで消費される電力PL [W]を最大にするには、RLをいくらにすればよいか、という問題です。
 単純に考えれば、RL=0(短絡)ですが、これでは電流は多く取り出せますが、負荷抵抗の両端は0 [V]なので、電力が発生せず、内部抵抗RSが発熱するばかりで、取り出せる電力はゼロです。逆に、RLを大きな値にし過ぎると、両端電圧は上がりますが、電流が減って電力も減ってしまいます。
 0<RL<∞のどこかに最適値があるはず(アタリマエ?)ですが、ここは目分量とか勘ではなく、きちんと数学という道具を使わざるを得ません。まずはRLに発生する電力PLをRLの関数として求め、その値が最大値となる時のRLを計算します。この回路に流れている電流をi [A]とすると、PLは、
 
と求められます。(12)式の右辺のV2以外の部分を取り出して、分母と分子をRLで割ってみると、
 
となります。(13)式の右辺の分母が最小になれば、PLは最大になることが分かります。数学が得意な方は、この分母の式を見ただけでグラフが描けると思いますが、単純に言えば、y=1/x+x+C(Cは定数)のような形をしています。つまり、直線的なxに比例する成分と1/xに比例する成分が足し合わさったグラフですから、極小になる点が必ず1つだけあります。ということは、この分母の関数をRLで微分してゼロと置けば、その時のRLがPLの値を最大(つまり(13)式の分母を最大)にするはずです。
 そこで、(13)式の分母だけ取り出してRLで微分し、それをゼロと置くと、RL>0ですから、
 
と求められます。微分まで動員して求めてみたものの、結果が出てみれば単純で、電源の内部抵抗と負荷抵抗が等しい時に、最大電力が伝達される、ということを意味します。
 さらに、この時、負荷抵抗で消費される電力PLmax [W]を求めておきましょう。(12)式のRLにRSを代入すれば、
 
と求められます。

[4]何かがおかしい…いや、おかしくない?

 ここで、お気づきの方もおられると思いますが、同じ電力が、電源の内部抵抗RSでも消費されます。つまり、電源が出している電力の半分が、負荷ではなく内部抵抗で食われているのです。負荷には半分しか伝わっていません。しかも、負荷にかかる電圧は、電圧源が出力している電圧Vの半分です。
 「こんな使い方、あり得ない。うちの安定化電源は、10 [A]出力したって0.1 [V]も下がらない。RS=10 [mΩ]として、V=10 [V]出たらPLmax=2.5 [kW]になって、そんな電流は出せない」…計算は合っていますが、最大出力が10 [A]だからこうなるのであって、もっと出せれば計算通りになるでしょう。ただ、その時は内部抵抗で2.5 [kW]食うので、巨大な放熱器が必要になりますから、設計者はもっと内部抵抗を下げるように設計するでしょう。
 ここで計算しているのは、数値モデルであって、実際の実験用の直流安定化電源はこのような使い方はしません。
 では何のために、こんな計算をするのでしょうか?

[5]目的はインピーダンスマッチング

 いかにも無駄に見える、最大電力伝達の目的は高周波回路のインピーダンスマッチングです。例えば、測定器としての信号発生器(の出力インピーダンス)、ケーブル(の特性インピーダンス)、負荷が全て50 [Ω]に統一されているのは、信号源からの出力エネルギーが、最大限負荷に伝達されるようにするためです。信号発生器とケーブル、ケーブルと負荷がそれぞれミスマッチになっていると、反射が生じてエネルギーが信号発生器側に戻ってしまいますし、過渡応答波形では波形歪みも起こります。
 なお、アマチュアでは出題されないと思います(昨今の問題の高度化を考えるとそうも言い切れません)が、信号源のRSや負荷RLが「純抵抗(実数)」ではなく「インピーダンス(複素数)」である場合の最大電力伝達の問題にも(答えだけですが)触れておきます。
 まず、信号源インピーダンスZS [Ω]を抵抗分RSとリアクタンス分XS [Ω]により、
 
と表します。同様に、負荷ZL [Ω]の方も、抵抗分RLとリアクタンス分XL [Ω]により、
 
と表します。この場合に最大電力伝達になるには、LがZSの複素共役であること、つまり、
 
が条件となります。この計算は、複素数(複素電力)計算になるため、ここでは取り上げませんが、純抵抗の場合と同様の考え方で求められます。数学に自信のある方は証明にチャレンジしてみて下さい。

それでは、解答に移ります。
 
問題文から、巻き数比N=N2/N1ですから、(11)式のRXになります
(15)式から、最大電力伝達は、電源の内部抵抗と一次側から見た負荷が等しい時になされるのでRabGです
最大電力伝達時には(16)式より、負荷での電力が消費されます

となりますから、正解はと分かります。