□ R02年12月期 A-21  Code:[HH0305] : 導波管の寸法と遮断周波数の関係
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2022年
12/31 12月期問題頁掲載
09/01 08月期問題頁掲載
05/14 04月期問題頁掲載
H3212A21 Counter
無線工学 > 1アマ > R02年12月期 > A-21
A-21 図に示す方形導波管のTE10波の遮断周波数の値として、正しいものを下の番号から選べ。
 2.5 [GHz]
 5.0 [GHz]
 7.5 [GHz]
10.0 [GHz]
12.5 [GHz]
問題図 H3212A21a
Fig.H3212A21a

 ついに1アマでも導波管が出題されてしまいました…という程の衝撃です。簡単に(暗算で)出せる遮断波長(周波数)の計算ですが、今後、導波管での様々な出題が想定されますので、それも含めて解説します。
 ただ、導波管をマクスウェル方程式と境界条件から解き始めると、1陸技レベルになってしまいますので、ここでは方程式は解かれたものとして進めます。

[1]導波管とは

 導波管とは、高い周波数の電磁波を通すための、Fig.HH0305_aのような中空の金属の管です。この図は、羊羹のような矩形導波管を示していますが、断面が円形の、円形導波管もあります。以後、単に「導波管」と書いた場合は、矩形導波管のことを言うものとします。(円形導波管は、管内の電磁場分布などを求めるのに、後で述べるような単純な計算ができないため、1アマレベルでは出題されないと考えます。)
Fig.HH0305_a 矩形導波管
Fig.HH0305_a
矩形導波管
 さて、導波管を使ってアンテナに給電しているアマチュアは殆どおられないと思います。多くの方は同軸ケーブルをお使いだと思いますが、同軸ケーブルは、中心導体と外側の導体があって、その間に挟まれた(通常は絶縁体が充填された)空間を、電磁界が進行します。
 では、この導波管は、導体が「管」の1つしかないのに、どうして電磁波が伝送できるのでしょうか? 小中学校で「電気は行きと帰りの電線がないと伝わらない」「一本しかない電車の架線も、実は帰りの電流は地面(地球)という導体を流れている」と教わったのは、ウソだったのでしょうか?
 しかし、その一方で、我々は電磁波という「電線がなくてもエネルギーが遠くに伝わって行く現象」を「実感として」知っています。導波管は金属の管ですが、中を伝わっているのは、我々が普段通信に使っている電波が飛ぶのと、本質的には同じ現象だ、という視点に立って考えて行きます。つまり、同軸ケーブルも導波管も、導体に囲まれた空間内を電磁波が伝わる、という点では同じで、導体が1本か2本かはあまり本質的ではない、ということです。
 但し、導波管の中の電磁波の伝搬は、我々が普段目にしている、波長に比べて非常にスケールの大きな「ほぼ自由空間」と見なせる空間の伝搬とは違い、特殊な伝搬となります。これから、そのことを見て行きます。

[2]矩形導波管内の電磁界分布

 本来、電磁波が、ある境界条件の下でどのように伝搬して行くか、はマクスウェル方程式をその境界条件の下に解いて、電磁界の空間、時間分布がどうなるか、を求めるのが「正攻法」です。しかし、数式が延々とずらずら並ぶことになり、また、1アマレベルではやり過ぎなので、ここでは、方程式は解かれたものとして見て行きます。

(1) 伝搬モードとは何か
 上で、導波管内の伝搬は特殊な伝搬、と書きました。何がどう特殊なのか、を説明します。
 Fig.HH0305_bがTE10モードと呼ばれる伝搬モードの、導波管内の電磁界分布です。よく見ると、同軸ケーブルや平行二線(レッヘル線)等の伝送線路の電磁界分布とは全く異なります。
 何がどう異なるかというと、自由空間の伝搬や、同軸ケーブル内の伝搬時は、電界も磁界も、進行方向のベクトル成分を持ちません。つまり、(波がz方向に進むとすると)電界や磁界は全てxy平面と平行な平面内の成分しか持ちません。このようなモードをTEMモードと言います。
 モードとは、簡単に言えば電磁界の形のことです。
Fig.HH0305_b TE<sub>01</sub>モードの電磁界分布
Fig.HH0305_b
TE01モードの電磁界分布
 一方、ある瞬間の時を止めて見た導波管のFig.HH0305_bでは、導波管を上(y>0)から見ると、磁界が渦を巻いています。つまり、磁界の成分にz成分が含まれています。電界にはz成分はありません
 この他、導波管特有の呼び方ですが、Fig.HH0305_bのように置いた状態では、天地の面をE面、側面をH面と呼ぶことがあります。

(2) 導波管伝搬モードの表記法
 方程式を解いた結果、導波管に存在し得る電磁界はこのTE10モードの他にも、多数のモードがあり
・進行方向にも電界又は磁界のどちらかの成分がある
・x方向、又はy方向に見た時、電界や磁界が周期的に整数回変化する
という性質があります。モードの表記としては、m、nを自然数として、
 TEmnモード…進行方向に電界がなく電界がx方向にm回、y方向にn回の周期で変化する
 TMmnモード…進行方向に磁界がなく磁界がx方向にm回、y方向にn回の周期で変化する
という意味合いで用います。例えばTE10モードの意味は、進行方向(z方向)に電界の成分がなく、電界がx方向に1周期変化し、y方向には変化がない、という意味になります。
 但し、m=n=0の場合とTMm0、TM0nというモードはありません。

[3]導波管伝搬のパラメータ

 導波管には、その伝搬パラメータにも特徴的な性質があります。

(1) 遮断周波数 fC 遮断波長 λC
 導波管には、あるモードで伝搬できる電磁波の周波数がどんな周波数でもよいわけではなく、一定以上、という制限があります。ある導波管の特定のモードで伝搬可能な周波数の下限をその導波管・モードの遮断周波数といい、その周波数の自由空間中での波長を遮断波長といいます。遮断周波数はfC、遮断波長はλCと書くことが多いです。遮断波長は、λC=c/fC(cは自由空間中の光速)で求められます。この後で述べますが、管内波長という用語も出てきます。この遮断波長は、あくまでも遮断周波数の自由空間中の波長であることに注意して下さい。
 TE10モードの遮断波長は、以下の式で求められます。
 
TE10モードの場合、導波管の長辺の2倍が遮断波長、ということになります。導波管の断面寸法が同じであれば、mやnの値が大きくなるほど(これを高次モードと言います)、遮断波長は短くなります。例えば、TE11モードでは、
 
となります。(1)式と比べてみれば、分母はaやbどんな値であろうが1より大きいので、(2)式の値はTE10モードの遮断波長より短いことが分かります。他のモードについても計算した結果、矩形導波管の全てのモードの中で、TE10モードの遮断周波数が最も低いことが分かっています。そのため、TE10モードを基本モードと呼びます。
 さて、遮断周波数より低い周波数の電磁波が導波管に入射するとどうなるか、という解析も面白いです。全く伝搬できないのではなくて、入口から管軸方向に指数関数的に振幅が減衰する(物理で言う「エバネッセント」的な)伝搬のプロファイルになります。少しだけ(本当に僅か)なら伝搬可能ということです。ちょうど、損失のある導体に電磁波が入射したの(表皮効果)と同じです。

(2) 管内波長 λg
 Fig.HH0305_bを見ると、進行方向に磁界が渦を巻いています。隣り合う渦は反対回りなので、進行方向には渦2個分で「1周期」ということになります。そこで、この1周期分の、進行方向の長さを管内波長と呼び、λgと書きます。上に述べたように、導波管内は自由空間と伝搬モードが違い、平面波ではないので、波長も同じ定義にはできません。そこで、このような定義にしているわけです。
 遮断周波数より高い電磁波(自由空間での波長がλ)が導波管内を伝搬している時、遮断波長、管内波長と伝搬している電磁波の波長の関係は、
 
となりますが、今、知りたいのはλgなので、これについて解くと、
 
と求められます。右辺は、λ→λCの極限で、式の分母→0となりますから、λg→∞に発散してしまいます。これは、導波管に入れる周波数を十分高い所から下げて行くと、の管内波長がどんどん長くなり、ついに遮断波長に等しくなると、伝搬できなくなる、という現象を表しています。
 TE10モードが伝搬している時は、λC=2aを代入して、信号周波数からλを求めてやれば、管内波長が求められます。

(3) 特性インピーダンス Zg
 導波管も伝送線路の一種なので、特性インピーダンスを持っています。1アマでは出てきませんが、実は自由空間にも特性インピーダンスZ0があって、Z0≒120π [Ω](≒377 [Ω])です。これが基準として、導波管のインピーダンスを求めてみると、
 
という式で表せます。この式の分母は(4)式と全く同じで、λ→λCの極限で、Zg→∞に発散します。管内波長が∞になるだけでなく、特性インピーダンスも∞になるわけです。これも、TE10モードが伝搬している時、ある周波数での特性インピーダンスを求めたければ、
 
に波長λを計算して入れてやれば、Zgが求められます。この式からは、定性的に、周波数が高い程(λが短い程)、Z0に近い値になる、ということが分かります。

それでは、解答に移ります。
(1)式から、この導波管のTE10モードの遮断波長は、3.0×2=6.0 [cm]=0.06 [m]となります。周波数の計算は、
 c/λ=3×108/0.06=5×109 [Hz]=5.0 [GHz]
と求められますから、正解はと分かります。