□ R02年12月期 A-01  Code:[HA0306] : 真空中の平行平板コンデンサの電極間に任意の厚みの誘電体を入れた時の容量計算
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2022年
12/31 12月期問題頁掲載
09/01 08月期問題頁掲載
05/14 04月期問題頁掲載
H3212A01 Counter
無線工学 > 1アマ > R02年12月期 > A-01
A-01 図1に示すように、空気中に置かれた電極間距離1 [cm]の平行平板コンデンサがある。このコンデンサを、図2に示すように電極間の距離を2 [mm]増し、更に電極間に厚さ4 [mm]の誘電体を入れた後に静電容量を測定したところ、図1のコンデンサと同じ値になった。この誘電体の比誘電率として、最も近いものを下の番号から選べ。
問題図(横長) H3212A01a
Fig.H3212A01a
1.5
2.0
2.5
3.0
3.5

 この問題は、今迄の「平行平板コンデンサの極板間の厚みの半分だけ誘電体を入れた」問題の発展形です。誘電体の厚さが任意になりました。でも、平行平板コンデンサの厚みと容量の関係や、厚みと比誘電率の関係を理解していれば、さほど難しい問題ではありません。

[1]平行板コンデンサの特性

 最初から本質を突いてしまうと、平行板コンデンサの容量は、極板面積と誘電体の誘電率に比例し、極板間距離に反比例する…ということに尽きてしまいます。この問題は(後に述べる)上の関係を定量化した公式を知っていれば、頭の中で解けてしまいます。
 それではイマイチつまらないので、もう少しきちんと意味を理解してみることにします。
 とりあえず始めにその「公式」とやらを復習します。極板面積をS [m2]、極板間距離をd [m]、誘電体の誘電率をε [F/m]とします。このコンデンサの静電容量C [F]は、
 C=εS/d [F] …(1)
と表されます。言葉で書くと、冒頭に青字で書いた部分の内容になります。
 容量の大きなコンデンサを作りたければ、Sを大きくするか、dを小さく(誘電体を薄く)すればいいわけです。もちろん、εを大きくしても構いません。電子部品の世界では、それぞれの用途に応じてこの3つのパラメータを調整し、製品となる所望の容量のコンデンサが作られています。
 御興味のある方は、村田製作所(セラミックコンデンサ)や日ケミ(電解コンデンサ)等で公開されている技術的な文書をお読みになると、コンデンサの奥深さに触れられます。
 さて、本題に戻ります。極板面積が増えれば、容量が増えるのは直感的に理解しやすいですが、誘電体の厚みはどうでしょう。誘電体が厚ければ電荷がたくさん溜められそうな気もしますが、実際はそうではありません。電荷は両極板に溜まるのであって、誘電体の中に溜まるものではないからです。
 誘電率はどうでしょう? 誘電率、というのは、一言でいえば誘電体が分極(電気力線の向きに応じて原子や分子の中の電子が特定の向きに偏る現象)を起こす起こしやすさを表したものです。分極が多く起こるほど、多くの電荷が電極に集められます。つまり容量が増えます。

[2]真空の誘電率と比誘電率

 何もない真空にも誘電率があって、これをε0と表します。ε0=8.85×10-12 [F/m]です。空気などの非電離気体は、通常は誘電率がほとんどε0とみなして構いません比誘電率とは、ある物質の誘電率εと真空の誘電率ε0の比をいいます。これをεrと書くことにすると、先の記述で、空気ではεrがほぼ1、ということです。一般には、
 ε=εrε0 …(2)
と書けます。ですから、平行板コンデンサの誘電体が真空の時と、比誘電率がεrの誘電体を挿入した同じ形状のコンデンサでは、容量がεr倍異なる、ということになります。

[3]誘電体の厚みを真空の厚みに換算…解法1

 まず、一つ目の解法です。
 この方法では、厚みがtで比誘電率がεrの誘電体は、真空という誘電率ε0の誘電体に換算すると、厚みがいくらになるか、ということを考えます。つまり、問題のコンデンサを、誘電体がすべて真空からなるコンデンサに置き換えてしまうわけです。
Fig.HA0306_a 誘電体の厚みの換算
Fig.HA0306_a
誘電体の厚みの換算
 比誘電率と厚みの議論は、これは比誘電率の定義そのものとも言えます。真空を誘電体とした厚さtのコンデンサを比誘電率εrで厚さtの誘電体Aで満たすと、静電容量はεr倍になります。逆に、その真空コンデンサと同じ容量を誘電体Aで実現しようとすれば、厚みは1/εrで済みます。
 このことを利用して、Fig.HA0306_aのように問題のコンデンサの誘電体部分も真空に置き換えて、全体が真空と考えます。まず、誘電体部分の厚みの換算を行ないます。
 誘電体の厚みが電極間距離d0のp/qであるとします(真空部分の厚みはd0(q−p)/qになります)。比誘電率はεrですから、問題のコンデンサの誘電体部分のみの厚みを真空の厚みd1に換算すると、
 d1=(pd0)/(qεr) …(3)
一方、真空の層の厚さd2は上に書いた通り、
 d2=d0(q−p)/q …(4)
となります。d1とd2とを合わせると、求めるコンデンサの真空という誘電体の厚みdcになります。
 dc=d1+d2=d0{p/(qεr)+(q−p)/q} …(5)
求めるコンデンサの容量Cvは、この厚みを持った真空コンデンサと同じであることになります(Fig.HA0306_a右)。つまり、このdcを(1)式のdに代入してやればよく、
 Cv=ε0S/dc
   =(ε0S/d0)[1/{p/(qεr)+(q−p)/q}]
   =0S/d0)(qεr)/{p+(q−p)εr} …(6)
となります。この式をよく見ると、青字の部分は厚さがd0で極板面積がSの真空コンデンサの容量で、赤字の部分は、誘電体の厚みの分割割合と比誘電率で決まる係数です。一見、計算が面倒そうな式ですが、実際にが厚みの分割比率が整数比だったり、比誘電率が整数であれば、数値を入れながら計算すれば大した手間にはなりません(ここでこんな面倒な式になっているのは「一般解法」を求めたからです)。

[4]誘電体の異なる2つのコンデンサに分離する…解法2

 次に2つ目の解法です。
 このコンデンサをFig.HA0306_b右のように2つのコンデンサの直列接続とみなしてしまいます。本当にこんな変換できるのか?という疑問はありますが、厚さxの平行平板コンデンサが厚さx/2の2つのコンデンサが直列になったものと容量が等しいかどうか計算してみて下さい。
 このテクニックを使うと、この問題で真空の部分の厚さd0(q−p)/qのコンデンサ(容量をC1とする)と、εr=nの誘電体の入った厚さd0p/qのコンデンサ(容量をC2とする)の直列の合成容量を計算すればよいことが分かります。
 C1とC2はそれぞれ、
Fig.HA0306_b 2直列に分離
Fig.HA0306_b
2直列に分離
 C1=ε0S/{d0(q−p)/q} …(7)
 C2=εrε0S/(d0p/q) …(8)
となりますから、C1とC2の直列容量Csは、
 1/Cs=1/C1+1/C2
    ={d0(q−p)/q}/(ε0S)+(d0p/q)/εrε0
    ={d0/(ε0S)}{(q−p)/q+p/(qεr)}
∴ Cs0S/d0)(qεr)/{p+(q−p)εr} …(9)
となります。同じ問題を2つの方法で解いただけなので当然と言えば当然ですが、(6)と(9)は全く同じ式になります。

それでは解法に移ります。
 この問題は、今迄のように「厚さ方向の一部に比誘電率と厚みが与えられている誘電体が入った並行平板コンデンサの容量を求める」のではなく、「厚みの変化分を調整して容量を元のコンデンサと同じになるようにした時の、未知の誘電体の比誘電率を求める」という視点の転換がなされています。ですが、解法2を使えば、ほとんど暗算で解けてしまいます。
 まず、空気コンデンサ(厚み8 [mm])の容量をC1 [F]とします。C1を元の(誘電体を入れる前の厚さ1 [cm]の)コンデンサの容量C [F]で表せば、
 C1=(10/8)C=1.25C …(a)
となります。また、誘電体の比誘電率をεrとすると、誘電体の入った部分のコンデンサの静電容量をC2 [F]とすれば、これを上記と同様にCで表して、
 C2=(10/4)εrC=2.5εrC …(b)
と書けます。解法2のキーは、C1とC2の直列の合成容量がCに等しいということなので、静電容量の合成の式を使って、
 C-1=C1-1+C2-1
 C=C12/(C1+C2)
  =1.25×2.5εrC/(1.25+2.5εr)
これをεについて解けば、
 1.25+2.5εr=1.25×2.5εR
 ∴ εr=2.0
となりますから、正解はとなります。
 なお、今迄の問題は「真空中」で今回は「空気中」ですが、真空が空気になっても、比誘電率は殆ど1で変わらないので、同じように解いて構いません。