□ H27年08月期 A-12  Code:[HE0604] : 単一正弦波をASK又はPSKで変調した場合の波形の違い
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2022年
12/31 12月期問題頁掲載
09/01 08月期問題頁掲載
05/14 04月期問題頁掲載
H2708A12 Counter
無線工学 > 1アマ > H27年08月期 > A-12
A-12 次の記述は、単一正弦波の搬送波をデジタル信号で変調したときの変調波形について述べたものである。[ ]内に入れるべき字句の正しい組合せを下の番号から選べ。ただし、デジタル信号は"1"又は"0"の2値で表されるものとする。
(1) 図に示す変調波形1は[A]の一例である。
(2) 図に示す変調波形2は[B]の一例である。


PSK FSK
PSK ASK
ASK PSK
FSK PSK
問題図 H2708A12a
Fig.H2708A12a

 この問題を見て、アマチュアにもデジタル方式の無線技術を学んでほしいという、出題側の意図を感じました。世の中、タクシー無線からスマホ、GPSまで、無線とデジタルは切り離せなくなってきています。デジタル変調と言っても、入り口はさほど難しくないので、易しいところから始めます。

[1]デジタルデータで変調をかけて通信するには

 音声や画像などのアナログ信号をデジタル化して通信しようとする、PCM方式については、過去に出題されている問題(H1808A08)もありますし、通信の「始祖」ともいえる無線電信は、文字を(モールスという)コードに変換して通信する、れっきとしたデジタル通信です。
Fig.HE0604_a デジタル無線通信の原理
Fig.HE0604_a
デジタル無線通信の原理
 無線通信は、搬送波という高周波に、変調波により変化を加えて情報を乗せ、アンテナから空間に放出して通信を行うものです(Fig.HE0604_a)。これは、簡単なワイヤレスマイクから、惑星探査機が送ってくる宇宙の画像に至るまで、原理的に違いはありません。
 一定周波数、一定振幅、一定位相で発振している正弦波発振器に、外から変化を加えるには、これら、波の3要素(振幅、位相、周波数)の分だけ方法があります(これらの2つ以上の組合せもあり得ますが、ここでは扱いません)。
 アナログ変調ではAMやSSB等の振幅に変化を加える変調(振幅変調)や、FM(周波数変調)といった方式がありました。(残る「位相」は、アナログ変調ではあまり用いられていませんが、デジタルでは大活躍です。)
 デジタルでも変調の基本原理は同じです。変調波が、"1"と"0"のデジタル信号である、というだけで、これを使って、上で出てきた波の三要素をどのように変化させるか、は、同じなのだ、と理解して下さい。
 そこで、以下では、振幅を変化させる、位相をを変化させる、周波数を変化させる、という順に、デジタル変調方式の入り口の技術を説明します。

[2]振幅を変化させるASK (Amplitude Shift Keying)

 まず、振幅を変化させる変調は、デジタル通信の世界では振幅偏移変調 (ASK Amplitude Shift Keying)方式と呼びます。デジタル通信なのに、Keyingという語が不思議に思われると思いますが、これは、電信がデジタル通信の始まりと考えられているからです。Keyingは、この後の方式にも出てきます。
 次に、Fig.HE0604_bを見て下さい。「なんだ、電信と同じじゃないか」と思われるかもしれません。
 原理的にはその通りです。ただ、人間がキーを叩いて変調するわけではなく、高速に流れてくるデジタルデータによって変調するので、図の"1"や"0"の時間がmsやμsのオーダーになります。また、人間なら、長点、短点、スペース、語間の比が正確に3:1:1:7になっていない、いわゆる「癖」のある符号でも読めなくはないですが、デジタル通信の場合は、判断するのがコンピュータですから、途中でノイズが加わるなどして、ある程度以上、符号のタイミングや振幅が乱れて受信されると、エラーになります
 振幅を変化させてデータを送信する、というのがASKの動作ですが、この図のように、必ずしも全然電波の出ない区間を設ける必要はありません。
Fig.HE0604_b ASK変調の原理
Fig.HE0604_b
ASK変調の原理
 例えば、"0"で振幅を半分にするなど、必ずしも振幅を零にしなくても、「振幅だけを変化」させてやればASKとして通信は可能です。
 ASK方式は、搬送波を"1"と"0"で振幅変調してやればよいので、変調回路は比較的簡単ですが、受信側では、フェージングやノイズなどで振幅が変わってしまうと、どのレベルを"1"と判定したらよいのかが分からなくなるので、そのための対策が必要です。
 ASK方式は、無線の世界では、単独では殆ど用いられていませんが、光ファイバの世界では、レーザー光のON/OFFは高速にできるので、よく用いられています。

[3]位相を変化させるPSK (Phase Shift Keying)

 二番目は、搬送波の位相を変化させる、位相偏移変調 (PSK Phase Shift Keying)です。SSBやFMを多く使っている我々アマチュアには、この「位相」というのがイマイチよく理解できないと思いますが、まずはFig.HE0604_cを見て下さい。
 デジタルデータが"0"から"1"へ、また、"1"から"0"へ変化する時、搬送波の位相が変化しているのが分かります。つまり、デジタルデータが"0"の時は搬送波の位相が0°から始まり、"1"の時は180°(π [rad])から始まっています。(この割当て方は送受信間の「決め事」ですから、"1"と"0"と0°/180°の割当を反対にしても構いません)
 また、切り換える2波形が0°と180°でなければならない必要はなく、90°(π/2)と270°(3π/2)でも構いません。
 この方式の特徴は、(当たり前ですが)デジタルデータが何であれ、振幅が変化しないことです。もちろん、周波数も変化しません。
Fig.HE0604_c PSK変調の原理
Fig.HE0604_c
PSK変調の原理
 振幅が変化しないということは、受信側で振幅変動を除去してやれば、フェージングやノイズの影響を受けてエラーになる、或いはデータが化ける等の確率は低くなる(=エラーレートが下がる)ということであり、この点ではASKより有利です。
 さらに、搬送波が常に出ていますから、受信側で搬送波を再現(再生といいます)させる際にも有利であるため、デジタル通信ではPSKがよく用いられています。
 なお、上の例のように、2値でしか位相が変わらないPSKを、特にBPSK (Binary PSK)と呼びます。

[4]周波数を変化させるFSK (Frequency Shift Keying)

 最後の方式は、FMと似て、周波数をデジタル的に変化させる、周波数偏移変調(FSK Frequency Shift Keying)です。
Fig.HE0604_d FSK変調の原理
Fig.HE0604_d
FSK変調の原理
 Fig.HE0604_dのように、デジタルデータの"0"、"1"に応じて、搬送波の周波数が変化させる方式です。アマチュアでは、電波形式F1BやF1DのRTTY、パケット等がこれに属します。
 この方式が他のASKやPSKと異なるのは、搬送波の周波数を変えてしまうことです。これが、ダイレクトに占有周波数帯幅に効いてくるので、どの程度の通信速度で、どの程度の周波数シフトをさせるか(変調指数)、によっては、広い帯域を必要としてしまうので、システムの設計には注意が必要になります。
 PSKと同様、送信側は常に一定振幅の電波を発射していますので、受信側ではリミッタを用いてフェージング、ノイズ等の振幅変動成分を除去することが可能です。
 このことは、H1312B03等の問題でも解説している通り、音声ではひずみやノイズの除去、デジタルデータではエラーレートの低下となって現れます。

[5]一度にまとめて送る方法

(ここからは「試験に出ない(かもしれない)」発展的内容ですので、理解できなくても、まずは困らないと思います。)
 ここまででお気づきの方もおられるかもしれませんが、上の例では、"0"や"1"など、1bitのデータを変調波の2つの状態(振幅の大小、2種類の位相、2つの周波数)に割当てて送っていました。
 「だったら、4種類の振幅、位相、周波数を用意しておいて、それらに2bitを割当て、1回の状態の送信で、"00" "01" "10" "11"というようにまとめて送ってしまえば、通信速度を倍にできる(=通信時間が半分になる)のではないか」という発想もあり得ます。
 ついこの間まで、通信の高速化の研究というのは、まさにそんな発想から行われていたものです。それに、変化させるのを位相だけでなく振幅も同時に要素に加えれば、例えば、位相4状態、振幅4状態で16状態(=24で情報量として4bit)が一度に送れるではないか、というわけです。
 振幅と位相など、2つの要素を同時に変化させるのは混乱するので、Fig.HE0604_e左のように、ASKでA1からA4の4振幅、PSKでφ1からφ4の4位相、FSKでf1からf4の4周波数を考えます。
 これらに、各々、2bitデジタル値"00" "01" "10" "11"を割当てれば、同図右のようにそれぞれの変調方式で、1回の状態変化で2bitが送れます。このように一つの状態に複数ビットを割当てる変調方式をまとめて、多値変調と呼びます
 だったら、8状態、16状態…と増やしていけば、いくらでも高速化できるのでは、と思いますが、そこは有限の周波数帯域幅とS/Nで制約を受けてうまく行かず、シャノンの定理、という定理によって、物理的に越えられない壁が存在します
Fig.HE0604_e 多値変調の原理
Fig.HE0604_e
多値変調の原理
 ASKを例に取れば、状態数を増やす、ということは、受信側では振幅の細かな差まで判別しなければならないということであって、S/Nが少し悪くなるだけでエラーだらけ(エラーレートの増大)で通信にならなくなります。位相も周波数も同様です。
 上で、「通信の高速化の研究というのは、まさにそんな発想から行われていた」と過去形にしたのは、通信方式も、デバイスの開発も、既にシャノンの限界に近付いてきたので、一時期の熱気はなくなった、というニュアンスからです。
 なお、上で「1回の状態変化」と呼んでいるものは、デジタル通信の世界では「1シンボル」と呼びます。ASK、PSK、FSKの例で示したのは、1シンボル=1bitでしたが、Fig.HE0604_e右の図は、1シンボル=2bitというわけです。

それでは、解答に移ります。
 …この波形は振幅が変化していますからASK変調です
 …この波形は位相が変化していますからPSK変調です
となりますから、正解はと分かります。

 デジタル無線通信の分野は、分類こそ「デジタル」でありながら、必要な知識・技術はアナログ、高周波そのものの分野です。参考文献でも挙げておきましたが、この分野の第一人者の著者が、我々アマチュア無線の出身であることからも分かるように、我々には「どっぷりハマれる」面白さがあります。興味が湧いた方は、是非この世界に飛び込んでみることをお勧めします。