□ H20年12月期 B-05  Code:[HJ0502] : デジタルマルチメータの構造(ブロック図)と動作原理
インデックス
検索サイトから来た方は…
無線工学の基礎 トップ

以下をクリックすると、元のページが行き先に飛び、このウインドウは閉じます

 ■ 無線工学を学ぶ
 (1) 無線工学の基礎 
 年度別出題一覧
  H11年 4月期,8月期,12月期
  H12年 4月期,8月期,12月期
  H13年 4月期,8月期,12月期
  H14年 4月期,8月期,12月期
  H15年 4月期,8月期,12月期
  H16年 4月期,8月期,12月期
  H17年 4月期,8月期,12月期
  H18年 4月期,8月期,12月期
  H19年 4月期,8月期,12月期
  H20年 4月期,8月期,12月期
  H21年 4月期,8月期,12月期
  H22年 4月期,8月期,12月期
  H23年 4月期,8月期,12月期
  H24年 4月期,8月期,12月期
  H25年 4月期,8月期,12月期
  H26年 4月期,8月期,12月期
  H27年 4月期,8月期,12月期
  H28年 4月期,8月期,12月期
  H29年 4月期,8月期,12月期
  H30年 4月期,8月期,12月期
  R01年 4月期,8月期,12月期
  R02年 4月期,9月期,12月期
  R03年 4月期,9月期,12月期
  R04年 4月期,8月期,12月期
 分野別出題一覧
  A 電気物理, B 電気回路
  C 能動素子, D 電子回路
  E 送信機, F 受信機
  G 電源, H アンテナ&給電線
  I 電波伝搬, J 計測

 ■ サイトポリシー
 ■ サイトマップ[1ama]
 ■ リンクと資料

 ■ メールは下記まで



更新履歴
2022年
12/31 12月期問題頁掲載
09/01 08月期問題頁掲載
05/14 04月期問題頁掲載
H2012B05 Counter
無線工学 > 1アマ > H20年12月期 > B-05
B-05 次の記述は、図に示す携帯型デジタルマルチメータ(DMM) の原理的構成における各部の働きについて述べたものである。[ ]内に入れるべき字句を下の番号から選べ。
問題図 H2012B05a
Fig.H2012B05a
(1) 入力信号変換部は、測定端子に加えられた被測定量(電気量)を適当な大きさの[ア]に変換する。
(2) A−D変換部には、変換速度はやや遅いが[イ]や精度が優れている[ウ]型のA−D変換器が用いられることが多い。
(3) 表示部に表示桁数が3-1/2桁(又は3と1/2桁)のものが用いられる場合、表示数値の最大値は[エ]となるほか、数字以外に[オ]、単位、負号なども自動的に表示される。
 最大値  1999  二重積分  雑音指数  直流電圧
 計数  9999  小数点  直線性 10 交流電圧

 最近は、「針」式のアナログテスターに代わって、問題のようなデジタルマルチメータ(以下、DMMといいます)が使われるようになりました。変動する信号などは針の方が様子を掴み易いので…と言おうとしたら、私が仕事で使っているものはほぼリアルタイムに反応するバーグラフが数字の表示の下に付いているものもあったりします。

[1]測定対象をすべて直流電圧に変換する

 DMMは、交/直電圧や電流、抵抗など、従来のアナログテスターで測定できたものはすべてデジタル値として測定可能になっています。なので「マルチメータ」なのですが、後に述べるように、アナログ信号をデジタルに変換するA/Dコンバータ(変換器)はほとんどが直流電圧を入力するタイプです。従って、入力に多種多様な信号が入ってくることを考えると、何らかの変換が必要になります。
 ここで、「変換」と言っているのは、交流電圧→直流電圧、直流電流→直流電圧、抵抗→直流電圧など、入力として入ってくるいろいろなソースをすべて直流電圧に変える回路のことです。
Fig.HJ0502_a DMMの入力部分の例
Fig.HJ0502_a
DMMの入力部分の例
 Fig.HJ0502_aにDMMの「ヘッドアンプ」ともいう入力部分の例を描いてみました。
 まず、直流電圧はそのままでも入力できそうですが、A/Dコンバータの入力レンジは数[V]程度で決まっているので、ミリボルトやキロボルトはそのままでは入力できません。増幅するか、電圧分割を入れてバッファするか、が必要になります。
 次は、交流電圧です。直流と同様にレンジをA/Dに合わせることも必要ですが、重要なのは交流を直流に変換(整流)することです。
 この例では増幅した後に半波整流するような絵が描いてありますが、必ずしもこの通りとは限りません。一般にDMMの整流機能は高周波特性が良くないので、特別な仕様でなければ、商用周波数からせいぜい数10 [kHz]どまりです。
 次は直流電流です。電流は、わずかな抵抗(シャント抵抗)の両端に発生する電圧を増幅してA/Dに渡します。ここでは直流しか書いてありませんが、交流電流を測定できるものは、増幅器の後段に、交流電圧と同じく整流回路が設けられます。
 最後は抵抗です。普通、DMMには電池あるいは電源が内蔵されていますから、この電源から抵抗に定電流を流して、両端に発生する電圧を増幅し、A/Dに渡します
 DMMにはロータリースイッチや押しボタンの切り替えスイッチが付いていて、測定モードを切り替えるようになっています。レンジは自動切替のものが多いです。この例では、切り替えた後の信号は、一段緩衝増幅(バッファアンプ)をかませて、A/Dに接続しています。

[2]アナログ−デジタル変換の要…A/Dコンバータ

 さて、DMMのキーパーツと言えば、A/Dコンバータです。A/Dコンバータは、近年、軍用など特殊用途を除いてほぼすべてモノリシック(シリコンのかけら1個)化されており、いろいろな場所で使われています。
 アナログ信号をデジタル値に変換する方法には、それだけで本が書けるほど多様な方法があり、目的とする信号によって、方法が異なります。ここでは、DMMに良く用いられ、直流に近い(=高速に時間変化しない)信号を高精度で変換できる二重積分形、と呼ばれるものの原理をご説明します。
 Fig.HJ0502_bは、二重積分形A/Dコンバータの概略構成です。ちょっと複雑ですが、信号の通る順を追って見て行けばさほど難しくありません。
Fig.HJ0502_b 二重積分形A/Dコンバータの構成
Fig.HJ0502_b
二重積分形A/Dコンバータの構成
 まず、入力信号はオペアンプの記号で示されている「積分器」という回路に入ります。この「積分」は数学の積分ですが、電気回路の積分はあまり難しく考える必要はありません。
 入力は高速に変化しない>ので、ほとんど一定値を取ると考え、そのような信号を時間で積分すると、直線的に増加する一次関数になります(後で波形を調べます)。
 積分された信号は、比較器(コンパレータ)に入り、GNDレベルと比較されます。ここからはロジック(論理)回路の世界です。
 クロック発生回路は、常に一定周波数のクロックを発生しています。クロックは、制御ロジックとゲートに入りますが、制御ロジックは、クロックとコンパレータの入力から、積分器の入力切替(アナログ入力か基準電圧か)を行うのと、パルス計数回路にリセットを出すこと、それに、ゲート(ANDゲート)を開くタイミングを出力します。パルス計数回路は、リセットがかかってから、入ってきたパルスの数を数えます
 と、こう文章で書かれても動作は全く分かりません。そんな時は、Fig.HJ0502_cのようなタイミングチャートが役立ちます。
 まず、話の都合上、スタート時点で積分器のコンデンサに溜まっている電荷はゼロ、すなわち積分器の出力はゼロから始まるとします。ここで、入力のスイッチが基準電圧から入力信号に切り替わった瞬間から話を始めます。
 上にも書いたように、入力電圧の変化は緩やかで、ほとんど一定値V1とみなせるので、積分器の出力は一定の割合で上昇して行きます(区間A1)。
 一定時間t0が経過すると、入力にあるスイッチが基準電圧源に切り替わり、入力と逆極性の定電圧Vrefが加わります。すると、積分器の出力は、符号が逆の積分なので、入力の傾きとは逆の傾きで降下してゆきます(区間B1)。
Fig.HJ0502_c A/Dコンバータのタイミング図
Fig.HJ0502_c
A/Dコンバータのタイミング図
 また、この時間中はゲートが開いており、クロックがパルス計数回路に加わります。
 積分器の出力がゼロにまで降下した瞬間(ここでかかる時間をt1とします)、コンパレータの出力が反転して、制御ロジックはこれをきっかけに、入力のスイッチを再びアナログ入力側に切り替えると同時に、ゲートを閉じ、パルス計数回路の出力を確定した後、リセットします。パルス計数回路では、ゲートが開いていた時間内に出てきたクロック数n1をカウントして、デジタル値として出力します。
 この図を見ると、積分器の出力は、入力の電圧(被測定電圧)を積分している時(区間A1)と、基準電圧を積分している時(区間B1)で、傾きの大きさが違います。
 また、区間A1より低い電圧V2が入力されている時間(区間A2)は、その時間幅t0は制御ロジックが決めている同じt0なので、到達する積分値が低いのが分かります。
 そして、区間B2で降下してゆく傾きは同じですからゼロ電圧に到達するのにかかる時間t2はt1より短くなります。従って、ゲートが開いている間(区間B2)に出てくるクロックの数n2もn1よりは少なくなります。
 このようにして、アナログ電圧が、クロックの数としてデジタル値に変換されるわけです。
 もっと、もっと分かりやすく説明すると…
・単位時間当たりにどれだけの水量V1が出てくるか分からない蛇口と、
・出てきた水をためるバケツと、
・一定水量V0で流し出すことのできるコックと、
・水量がゼロになったことを検知するセンサーと、
・水を流し出している時間を測るデジタル時計と、
・デジタル時計やセンサーをモニタしながら蛇口やコックを制御する部分と、
を備えた装置であって、
・蛇口から水の出るコックを開いて水を溜め、
・時間t0(一定時間)経過したら水を止め、
・流し出しコックを開いて溜まった水を捨て、
・センサーの出力を見ながら、水量がゼロになるまでの時間t1を計測すれば、
・t1の間に刻んだパルス数が蛇口から出てきた水量に比例する
という原理で動作するコンバータ、ということになります(特許の請求項みたいになってしまいましたが)。

[3]二重積分形A/Dコンバータの特徴とDMMへの適用

 二重積分形A/Dコンバータの特徴は箇条書きで説明します。
  • 高精度
    A/Dコンバータの精度の定義はいろいろありますが、二重積分形は分解能が高く、オーディオ用A/Dコンバータ(大体16bit)よりも256倍高い、24bitのものまで使用されています。
  • 低速
    変換周期が数 [Hz]〜10 [kHz]程度と、あまり高速ではありません。また、高速に変化する信号を入力すると、誤差が大きくなります。
  • 安価
    6桁以上も表示できるDMMは別ですが、ハンディテスターに用いられる程度の分解能(12bit)でしたら、比較的安価です。
 このA/DコンバータをDMMに使ったものは、一般的には±0〜1999の表示が得られる、いわゆる3桁半という表示のものが一般的です。表示部には、さまざまな表示がされますが、最低限、単位と小数点と負号(マイナス)は表示されます。特殊な用途を除いて、電池駆動が一般的になっています。

それでは、解答に移ります。
 …入力は何でも5直流電圧に変換されます
 …直流なので速度は遅くても精度や9直線性が必要です
 …この用途のA/Dコンバータには3二重積分型があります
 …3桁半の表示最大値は、2 1999です
 …数値の他、8小数点が表示されます
となります。

 余談ですが、どうしてマルチメータの桁は、「○桁半」というように「半」桁が多いんでしょうか? その昔は、桁数を増やしたいが、液晶やLEDの一番上の桁は"1"しか表示させないようにして、コンパクトに(コストダウンも)したい、という理由も考えられましたが、いまどき表示器の桁数を気にする計測器なんてあるのかな、とも思います。