□ H20年04月期 A-18  Code:[HG0705] : リチウムイオン蓄電池の特性や他の蓄電池との比較
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12/31 12月期問題頁掲載
09/01 08月期問題頁掲載
05/14 04月期問題頁掲載
H2004A18 Counter
無線工学 > 1アマ > H20年04月期 > A-18
A-18 次の記述は、リチウムイオン蓄電池について述べたものである。このうち誤っているものを下の番号から選べ。
ニッケルカドミウム蓄電池に比べ、自己放電量が小さい。
セル1個の公称起電力は2.0 [V]より低い。
ニッケルカドミウム蓄電池と異なり、メモリー効果がないので継ぎ足し充電が可能である。
小型軽量・高エネルギー密度であるため、移動機器用の電源として広く用いられている。
ニッケルカドミウム蓄電池に比べ、放電特性は、放電の初期から末期まで、比較的なだらかな下降曲線を描く。

 リチウムイオン蓄電池は、携帯機器では一般的な電源になりましたが、ニカド電池のように電池単体では販売されていません。安全性の観点から、充電制御回路+電池本体がセットになった状態でしか手に入れることができないからです。このため、ハンディ機などでは長らく乾電池と互換形状のニカド(もしくはニッケル水素)電池が主流でした。しかし、これだけ一般に普及する技術になったので、無線の国家試験でも出題されるようになりました。まずは、よく比較されるニカド電池の知識から始めて、リチウムイオン蓄電池に迫ります。

[1]ニッケルカドミウム電池(NiCd電池)の特徴と動作

 ニッケルカドミウム電池は、「ニカド電池(JIS)」「ニッカド電池」「カドニカ(三洋電機の商標名)」とか呼ばれるもので、ハンディ機などの電源としてよく使われていました。過去形なのは、ニッケル水素電池にその座を明け渡しつつあるからです。
 ニッケル水素の方が容量が大きく、カドミウムという環境負荷の大きな材料を使わないためですが、まだ現役で使われています。放電された状態では、負極が水酸化カドミウム(以下、Cd(OH)2)、正極が水酸化ニッケル(以下、Ni(OH)2)になっています。充電すると、負極がカドミウム(以下、Cd)、正極がオキシ水酸化ニッケル(以下、NiOOH)に変化します。電解液は、水酸化カリウムや水酸化ナトリウムなどの水溶液です。Fig.HG0705_aで動作を見ておきます。
Fig.HG0705_a ニッケルカドミウム電池の動作原理
Fig.HG0705_a ニッケルカドミウム電池の動作原理
  • 動作原理その1…充電時(Fig.HG0705_a左)
     充電の基本動作は鉛蓄電池と同じです。異なるのは化学反応だけです。
     まず、負極では、水酸化カドミウムが金属のカドミウムになります。
     Cd(OH)22e- → Cd2OH- …(1)
    (1)の反応式右辺の2OH-はイオンですから、水に溶けます。一方、正極では、水酸化ニッケルがオキシ水酸化ニッケル、という聞きなれない物質に変化します。
     2Ni(OH)22OH- → 2NiOOH+2H2O+2e- …(2)
    (2)式左辺の2OH-は、(1)式の右辺に生成したものをもらってきた、と考えてもいいでしょう。反応式は反応式として、定性的には、
    負極にはカドミウムが、正極にはオキシ水酸化ニッケルが生成する
    充電により水が生成するので、電解液の濃度は薄くなる
     上で、電解液は水酸化カリウムや水酸化ナトリウムなどのアルカリ溶液だ、と書きましたが、電解液の金属イオン(K+やNa+)は、電池の反応に関与しません。かと言って、これらは何でもいいわけではなくて、イオン化傾向(電子を外に出してイオンになる容易度)が電極を構成する金属よりも大きくなければなりません。

  • 動作原理その2…放電時(Fig.HG0705_a右)
     一方、放電時は充電と逆の反応になります。負極では、
     Cd2OH- → Cd(OH)22e- …(3)
    となって、水酸化カドミウムが生成します。また、正極では、
     2NiOOH+2H2O+2e- → Ni(OH)22OH- …(4)
    となります。定性的には、
    負極には水酸化カドミウムが、正極には水酸化ニッケルが生成する
    放電により水が消費されるので、電解液の濃度は上がる
    ということになります。

  • ニッケルカドミウム電池の特徴
     よく使われていたので、ご存知の方も多いでしょうが、改めて見ておきましょう。
    まずは長所です。
    電圧は約1.2 [V]…乾電池に近い電圧(乾電池が公称電圧の1.5 [V]なのはごく最初だけで後は1.3〜1.2 [V]に下がる)なので、ほぼ互換です。また、放電電流にもよりますが、他の充電池よりも放電中の電圧が一定に保たれている時間が長い特性があります。
    内部抵抗が低い…大電流を流しても、端子電圧が下がりにくい特徴を持っています。
    繰り返し使用に強い…300〜500回も充放電を繰り返すことができます。
    過放電・過充電に強い…かなり電圧が下がるまで過放電させても鉛蓄電池のように電池としての機能が失われることはほとんどありません。
    次に短所です。
    メモリー効果がある…完全に放電させずに「継ぎ足し充電」を繰り返すと、容量が減少したようになります。
    低温に弱い…低温では、取り出せる電荷量が大きく減少します。常温に戻すと復活します。
    環境負荷が大きい…カドミウムを含むので、リサイクル体制の確立が必要。ゴミとして排出されると有害物となります。


[2]リチウムイオン蓄電池の特徴と動作

 近年、ノートPCや携帯電話などに多く用いられるようになった電池です。軽量で容量が大きいため、これらの機器で長時間駆動ができますが、一旦(電池内部で)短絡事故になった場合に放出されるエネルギーも大きいので、電池自体に保護回路が入っているのが普通で、通常、単体では販売されていません。また、充電制御も必要なため、必ず機器の付属品として充電器が付いてくるか、あるいは充電器内蔵として、その機器専用に使われます。
 リチウムイオン電池は、他の二次電池と充放電の原理が少し違い、化学反応式で書くのが適当か分かりませんが、世間で採用されている表現で書いてみます。Fig.HG0705_bを見て下さい。
 一般的なリチウムイオン電池では、正極にはコバルト酸リチウム(LiCoO2)、負極にはリチウムイオンを取込む特殊な構造をしたカーボン(C:炭素)、電解液には有機溶媒が用いられます。正極と負極の間には、セパレータと呼ばれる、リチウムイオンは通すが絶縁性のある膜が用いられ、正極と負極がショートしないようにしています。
Fig.HG0705_b リチウムイオン電池の動作原理
Fig.HG0705_b リチウムイオン電池の動作原理
  • 動作原理その1…充電時(Fig.HG0705_b左)
     充電時、負極では炭素Cの電極の中に電源により流し込まれた電子とともにLi+が取り込まれます。Li+はこの電子により還元されて、金属のLiとなりますが、Cの層状構造の中に「嵌まり込んで」いるため、簡単には出てきません。
     C+xLi+xe- → CLix …(5)
    ここで、xは0≦x≦1なる数です。次に正極では、正極のLiCoO2からリチウムイオンLi+が溶け出して負極に移動します。移動する際に、セパレータはLi+は通すようにできているため、障害にはなりません。
     LiCoO2 → Li1-xCoO2+xLi+xe- …(6)
    この充電時の反応の特徴としては、
    リチウムイオンが正極から負極に移動する
    ・負極では、金属リチウムとして層状炭素の間に入り込んで蓄積される
    という点が挙げられます。リチウムを貯蔵する多層構造の炭素にどれだけ多くのリチウムイオンが取り込めるか、が大容量化の鍵です。

  • 動作原理その2…放電時(Fig.HG0705_b右)
     反応はすべて充電時と逆になります。負極では、層状構造の中に入っていたLiが電子を放出してLi+になって溶媒中に溶け出します。
     CLix → C+xLi-xe- …(7)
    正極ではセパレータを超えて移動してきたLi+が負荷を流れてきた電子とともに結合して、LiCoO2に戻ります。
     Li1-xCoO2+xLI+xe- → LiCoO2 …(8)
    放電時の反応の特徴としては、
    ・層状炭素中のリチウムが電子を放出してイオンになり、正極に移動する
    ・正極に到着したリチウムイオンは電子を受取りコバルト酸リチウムになる

  • リチウムイオン蓄電池の特徴
     メリットが多く、モバイル機器に多く利用されていますが、その理由をデメリットを調べます。まずは利点から。
    セル電圧は3.7〜3.8 [V]程度…他の電池と互換性はありませんが、物質量(=電荷量)あたりのエネルギーは大きく取れて有利です。電圧をはっきり書いていないのは、メーカーにより、電極材質や構造等が違うため、公称電圧が微妙に異なるためです。
    容量が大きい…同じ体積で比べれば、ニッケル水素の2倍以上の容量があります。また、自己放電量が少ないので、充電後に時間を置いても大きな容量を生かせます。
    軽量である…比重の大きな金属を使っていないので、軽量です。持ち運ぶモバイル機器向きです。
    メモリー効果がない…継ぎ足し充電しても容量は減少しません。この点もモバイル機器向きです。
    次にデメリットです。
    安全装置が必要…これは、蓄えられるエネルギーの大きさに比例して、事故の際の危険も増すので、スペースも重量も増す安全装置の装着が避けられないことではあります。リチウムイオンの場合はエネルギーが非常に大きいだけでなく、モバイル機器として持ち運ぶので、必須と言えます。
    高温に弱い…容量は大きいのですが、熱に弱いため、電気自動車やハイブリッドカーの電池としてはほとんど用いられていません。これらには、(上で説明した、コバルト酸リチウムではなく)熱に強いマンガン酸リチウムを使用した電池が用いられています。
    満充電で放置できない満充電で放置すると、容量が減ります。特に、高温で満充電の時が最も厳しく、直ちに電池として使えなくなるわけではないようですが、避けなければなりません。
    充電にケアが必要…鉛蓄電池のような定電流でずっと充電し続けるような単純な方式ではなく、電圧と電流を監視しながら制御しなければならないので、通常は専用の充電回路が付属しています。
    放電中の電圧変化が大きい…満充電の状態から放電し切るまで、「だらだら」と電圧が落ちます。放電の様子が掴みやすいとも取れますが、NiCd等の電圧が一定の時間の長い電池に比べると、機器の設計が面倒になります。


[3]ニカド電池とリチウムイオン蓄電池の比較

 長々と説明してきましたが、国家試験が目的なら、下記のことをチェックしておけばよいでしょう。
種 類 正 極 負 極 電解液 電圧 [V] 負荷適性 特 徴
ニカド電池 NiOOH Cd KOH or
NaOH
1.2 軽負荷〜
中負荷
内部抵抗低い
メモリ効果有
リチウム
イオン蓄電池
LiCoO2 C
(炭素)
有機
溶媒
3.7〜3.8
程度
中負荷〜
重負荷
大容量・メモリ効果なし
高温保管NG
 

それでは、解答に移ります。
 …リチウムイオン電池は自己放電量が少ないので正しい記述です
 …セル1個の起電力は、公称4.3 [V]程度ですので誤りです
 …リチウムイオン電池はメモリー効果がないので正しい記述です
 …今やモバイル機器の電源はほとんどこれであり、正しい記述です
 …リチウムイオン電池は「だらだら」な放電特性なので、正しい記述です
となりますから、正解(誤った選択肢)はと分かります。