□ H20年04月期 A-13  Code:[HE0507] : 間接周波数変調のFM送信機で、IDC回路の構成や逓倍段を複数設ける理由
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12/31 12月期問題頁掲載
09/01 08月期問題頁掲載
05/14 04月期問題頁掲載
H2004A13 Counter
無線工学 > 1アマ > H20年04月期 > A-13
A-13 次の記述は、図に示す間接周波数変調方式を用いたFM(F3E)送信機の構成例と主な働きについて述べたものである。このうち誤っているものを下の番号から選べ。
問題図(横長) H2004A13a
Fig.H2004A13a
IDC回路は、送信機の出力電力が規定値以上になるのを防ぐ。
スプラッタフィルタは、IDC回路で発生した高調波を除去する。
位相変調器は、水晶発信器の出力の位相をスプラッタフィルタの出力信号の振幅変化に応じて変え、間接的に周波数を変化させて周波数変調波を出力する。
位相変調器の位相を変化させる範囲が限られているため、最大周波数偏移を大きくするには、逓倍増幅器の段数を増やす。

 FM送信機では、周波数変調の方式が、直接か間接か、と、IDC回路がよく出題されます。この問題では間接周波数変調ですが、直感的に理解できる直接変調と違い、少し「理屈」が必要になります。

[1]IDC回路の役割は周波数偏移を規定値内に収めること

 まず、IDC回路の役割ですが、FM送信機の中で、周波数偏移をある一定の範囲内に収める働きをします。
 こうしないと大きな音声や高い周波数の入力が入った時、周波数偏移が(法規で定める)占有周波数帯幅を超えてしまうからです。SSB送信機には似たような回路で、電力増幅段のオーバードライブを防ぐALC回路というのがありましたが、IDC回路はこういった送信電波の質を保つ回路のひとつです。
 FM変調についても少し復習しておきましょう。FM変調を掛ける際、信号波の振幅が大きいほど、また周波数が高いほど、変調波の周波数偏移は大きくなります。ですから、周波数偏移をある範囲に抑えたければ、これらの両方を何かしらの方法で制限しなくてはなりません。

[2]IDC回路の構成

 「微分」や「積分」という難しげ?な数学用語が出てきますが、電子回路ではそれぞれ「高域強調(又は低域減衰)」と「低域強調(又は高域減衰)」という処理をすることだと思ってほぼ間違いないでしょう。
Fig.HE0507_a IDC回路の構成
Fig.HE0507_a
IDC回路の構成
 それを予備知識とした上で、IDC回路の構成を見てみましょう。概略は左図Fig.HE0507_aのようになっています。マイク入力はまず微分回路に入り、リミッタ(試験問題では「クリッパ」となっていますが、同じ物と思って下さい)で一定振幅以上の振幅にならないよう、制限をかけます
 その後段で、積分回路にかけ、FM変調器の入力とします。各段にある低周波増幅回路は、信号を増幅(バッファ)するだけですので、IDC回路の本質にはあまり関係ありません。
 Fig.HE0507_aにはありませんが、IDC回路の出口には、スプラッタフィルタというフィルタを設けることがあります。「スプラッタ」は不要輻射を撒き散らすことですから、それを防ぐものですが、なぜIDC回路の出口に必要なのでしょうか?
 IDC回路の中で、波形の頭を一定レベルに切り取ってしまう「クリッパ」回路がありました。波形の「頭を切る」という動作は、元の波形と違う波形を作り出すことですから、これそのものがひずみを発生させる動作に他なりません。つまり、IDC回路の中には、そのままでひずみとなる音声の高調波成分が含まれることになるので、これがスプラッタの元とならないように、フィルタをかけるのです。

[2]位相変化を周波数変化に変える間接FM変調

 間接FM変調の方式を理解するには、1アマでは出題されない(将来はわかりません)「位相変調」という変調方式の知識を少しばかり使います。交流にはその特性を表現する要素に、「振幅」「周波数」「位相」という3要素がありますが、この3要素を変化させる方式がそれぞれ存在します。振幅変調はAMですし、周波数変調はFMでした。間接FM変調では、位相を変化させる変調である、PM変調(位相変調)を使います。
 ここで、注意すべきなのは、周波数と位相の関係が微分と積分の関係にある、ということです。大変大雑把な言い方ですが、位相を(時間で)積分すると周波数に、周波数を(時間で)微分すると位相になります。イメージでは、ある(周波数・位相が)一定の信号に対して、位相ズレが積もり積もって周波数が低くなったり高くなったり、逆に、瞬間的な周波数の変化はその時の位相ズレ量に比例する、というような感覚的な理解です。
 ここでは、具体的な変調回路の動作などは省略します。それらは、直接変調と間接変調を比較した問題の解説で挙げています。

[3]信号波を積分して加えればいい

 上で見たように、周波数の変化が、位相のズレの積み重ね(積分)であるならば、積分した信号波を入力してやれば周波数変調になるのではないか、というのが間接FMのミソです。位相変調器の信号入力は、すなわち変調出力の位相をきめます。ここに、積分された信号波を入れてやれば、出力が周波数変調になるではないか、ということです。ここで、微分とか積分とか言っていますが、回路を見れば簡単で、微分が高域強調(又は低域減衰)、積分が低域強調(又は高域減衰)の回路です。
 この目的(変調入力に積分された信号波を用いる)のために、間接FM方式では「前置ひずみ回路」というものが用いられます。
 Fig.HE0507_b右にその「前置ひずみ回路」なる、中身が積分器の回路と、周波数特性を示します。灰色で示した抵抗R2は直流での振幅を制限する目的でつけたもので、本質的意味はありません。
 ところで、なぜこの回路が間接FM変調に用いられると「ひずみ回路」というかというと、積分器で相対的に高域を落としてしまいますから、元の波形がいろいろな周波数を含む場合は、出力波形が元の波形とは違った形になる、すなわちひずむからです。
 周波数特はFig.HE0507_b右下に示したように、周波数が倍になれば出力振幅が半分になる、いわゆる6dB/oct特性です。
Fig.HE0507_b 前置ひずみ回路の構成と動作
Fig.HE0507_b
前置ひずみ回路の構成と動作

[4]十分な周波数偏移を得るために逓倍する

 ここまで見てきた間接周波数変調方式は、源振として水晶発信器など安定度の良いものが使える反面、位相変調器で得られる偏移はあまり大きく取れません。
 そこで、Fig.HE0507_cのように、周波数逓倍段を利用します。簡単に言ってしまえば、周波数逓倍段は、搬送波に対してだけでなく、周波数偏移に対しても作用するので、これを利用するわけです。
 この図のように12.5 [MHz]±2.5 [kHz]の変調信号を4逓倍(2逓倍×2段)すると、50 [MHz]±10 [kHz]となり、周波数偏移が大きくなっていることが分かります。
 逆に考えると、UHF帯以上でかなり多段に逓倍しなければならない送信機の構成では、最初の変調での偏移をあまり大きくできないことになります。
Fig.HE0507_c 周波数逓倍により偏移量を稼ぐ
Fig.HE0507_c
周波数逓倍により偏移量を稼ぐ
 そのような場合は、単純に逓倍するのではなく、ミキサー(周波数混合器)を用いて、ヘテロダイン方式にするなどの方法を用います。

それでは、解答に移ります。
 …IDC回路は送信出力には作用しませんから誤った記述です
 …スプラッタフィルタの機能の正しい記述です
 …位相変調器の機能の正しい記述です
 …間接FM変調方式で偏移量を稼ぐ方法の正しい記述です
となりますから、正解(誤った記述)はと分かります。