□ H19年04月期 A-24  Code:[HJ0603] : SHF帯で用いられない測定機材
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2022年
12/31 12月期問題頁掲載
09/01 08月期問題頁掲載
05/14 04月期問題頁掲載
H1904A24 Counter
無線工学 > 1アマ > H19年04月期 > A-24
A-24 次に掲げる、無線通信用の測定器材等のうち、通常、5.6 [GHz]帯の周波数での測定に用いられないものを下の番号から選べ。
導波管
空洞波長(周波数)計
LCコルピッツ発振器によるディップメータ
ボロメータ形電力計
ダイオード検波器

 仕事で扱われている方やSHF帯・EHF帯で免許を受けておられる方以外は、マイクロ波領域の測定ツールになかなか縁がないと思います(私もですが)。それらについて説明した後、問題の解答に入ります。

[1]ボロメータ形電力計の構成と動作

 ボロメータとは、温度で抵抗値が変化する素子です。主にNTC(温度係数が負)サーミスタが用いられているようです。マイクロ波を入力するため、通常のリード線がついたサーミスタではなく、表面実装するリード線のない特殊なパッケージに入っています。
Fig.HJ0603_a ボロメータ形電力計の構成と動作
Fig.HJ0603_a
ボロメータ形電力計の構成と動作
 ボロメータ形電力計の構成は、おおむねFig.HJ0603_aのようになっています。
 基本的な構成は、ホイートストンブリッジですが、その1本の抵抗がサーミスタに置き換わり、サーミスタの両端に高周波入力を入れるようになっています。
 高周波入力がない時に、ブリッジは平衡するように設定されており、その時、電流計Mに電流は流れません。
 次に、高周波電力をサーミスタの両端から加えると、サーミスタには元々流れていた直流電流に加えて、高周波電流が加わるので、温度が上昇し、抵抗値が下がります。
 すると、ブリッジの平衡が崩れるので、Mに電流が流れます。それを検知して、ブリッジに入る電力をR0を増加させて減らし、再び平衡が取れるようにフィードバックをかけます。この時、減少させた抵抗一本あたりの直流の電力が、サーミスタに入力された高周波電力に等しいので、電力測定ができる、という仕組みです。
 お気づきかもしれませんが、このセンサ部分は、周囲温度に大きな影響を受けます。そのため、高周波を入力したまま周囲温度が変化すると、読取値が変わってしまいます。これを防ぐため、校正用に、同じサーミスタを使ってもう一つブリッジを作り、そちらには高周波を入力しないで、校正用の温度センサとして使う方法が考案されています。
 また、Fig.HJ0603_aではサーミスタへの電力入力は、素子両端の「端子」として描いていますが、非常に高い周波数(数十[GHz]超)の電力を導線に乗せることは普通行ないませんので、導波管とサーミスタを直接カップリングさせるセンサマウントと呼ばれる部品を使います(と書いてはみたものの、実物を見たことがありません)。

[2]空洞波長計(空洞周波数計)の構成と動作

 これもマイクロ波特有の計測器です。導波管の一端を閉じたものは、空洞(キャビティ)共振器という、共振回路になります。共振した時に、内部の電界(または磁界)が最大になります。
 その共振周波数は、キャビティの寸法で決まり、断面積が一定な「管」ならば、その深さ方向の寸法を変化させることで、共振周波数を可変できます。
 逆にいえば、周波数が未知の信号が導波管に通っていて、その周波数を調べたければ、行き止まりの管の長さを変えて、共振する点を探してやれば、その時の長さで周波数が分かる、という仕組みです。
 Fig.HJ0603_bがこれを形にした例です(共振部分が円柱なのはあまり一般的なものではないかもしれません)。
 導波管の側面に穴をあけて、横にある円柱と結合させます。漏れ出てきた電波は、円柱内に入ります。円柱の上部はマイクロメータの付いたピストン状のもので、高さ方向が可変になっています。
Fig.HJ0603_b 空洞共振器の構成例
Fig.HJ0603_b
空洞共振器の構成例
 円柱の内部に検出用のダイオード検波器が付いていて、ここからの出力を外部の電流計等でモニターします
 マイクロメータで空洞の高さを変えながら、共振点を探します。通常、周波数計であれば、マイクロメータに直読目盛が振ってありますので、周波数がそのまま読めるはずです。なければ、マイクロメータを最も下げた(上げた)状態にしておき、徐々に上昇(降下)させながら第1の共振点の寸法を記録し、さらに上昇(降下)させて第2の共振点を記録し、両者の寸法の差と、管内波長への換算式から周波数を求めることができます。

[3]その他のマイクロ波用測定機器

 上記の他にも選択肢にも出てくる、マイクロ波用の測定器類を挙げておきます。
  • 導波管
    これは測定機器というより、HFなどで言うと「ケーブル」に近い「伝送線路」です。ただ、ケーブルと違って、伝送できる周波数に下限があって、細い導波管ほど高い周波数でないと通りません損失が少ないので、レーダー波等の大電力も通せます。
  • ダイオード検波器
    高周波電界中に置くと、ダイオードの非線形性によって、検波出力が得られるもので、通常導波管内にダイオードをマウントしてあります。
  • 可変減衰器(アッテネータ)
    HFやVHF程度までは、周波数特性が良い抵抗器で構成されますが、マイクロ波域ではディスクリート抵抗はリード線インダクタンスが問題になり、使えません。このため、導波管内に抵抗膜をつけた板を挿入し、外部からその位置を変化させることによって減衰量が変えられるようになっているものです。
  • 方向性結合器
    導波管2本を隣り合わせて、λ/4(λは管内波長)離れた位置に小さな穴をあけて結合させます。1本を送信機とアンテナの間に入れると、もう1本の送信機側に反射波に比例した出力が、アンテナ側に進行波に比例した出力が得られるものです。SWRや反射係数の測定に用います。
  • ネットワークアナライザ
    これはHF〜UHFでも使用できるので、マイクロ波(SHF以上)特有とはいえませんが、最近では優に20 [GHz]を越える領域まで周波数レンジがあります。測定対象を2ポート素子として、その透過係数や反射係数(Sパラメータ)が自動で測定できるものです。
  • サーキュレータ
    これは不思議なデバイスです。例えば、A,B,Cの3ポートがあるとします。Aから入った信号はBに出てきますが、Cには出ません。Bに入った信号はCには出てきますが、Aには出ません。同様に、Cに入った信号はAには出てきますが、Bには出てきません。つまり、次のポートにのみ出力が得られ、他には出てこない、というデバイスです。
この他、校正用の標準器、切替器など、様々なツールがあります。

それでは、解答に移ります。
 コイルLやコンデンサCといったディスクリート(個別)部品は、リード線の寄生インダクタンスが問題となるため、通常はSHFの周波数では使えません。そのため、LCなどの部品を用いた測定器は、マイクロ波ではほとんど用いられません。選択肢のディップメータはLC共振回路の巻線でできたコイルLを被測定回路に結合させるので、マイクロ波では使えません。
 ということで、正解はと分かります。