□ H18年12月期 A-14  Code:[HB0702] : セラミックの圧電効果を利用したフィルタ・振動子の構造と動作原理、用途
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2022年
12/31 12月期問題頁掲載
09/01 08月期問題頁掲載
05/14 04月期問題頁掲載
H1812A14 Counter
無線工学 > 1アマ > H18年12月期 > A-14
A-14 次の記述は、FM受信機等に用いられているセラミックフィルタについて述べたものである。[ ]内に入れるべき字句の正しい組合せを下の番号から選べ。ただし、[ ]内の同じ記号は、同じ字句を示す。
(1) セラミックフィルタは、セラミックの[A]を利用したもので、図に示すように、セラミックに電極を貼り付けた構造をしている。この電極a−c間に特定周波数の電圧(電気信号)を加えると、[A]によって一定周期の固有の機械的振動が発生して、セラミックが機械的に共振するので、この振動が電気信号に変換されて、もう一方の出力電極b−cから取り出すことができる。
(2) セラミックの材質と形状及び寸法などを変えることによって、固有の機械的振動も変化するため、共振周波数や[B]を自由に設定することができ、[C]フィルタとして利用することができる。

圧電効果 尖鋭度Q 帯域
圧電効果 感度 高域
トンネル効果 尖鋭度Q 帯域
ゼーベック効果 感度 帯域
ゼーベック効果 尖鋭度Q 高域
問題図 H1812A14a
Fig.H1812A14a

 比較的新しいデバイスの動作原理の問題です。初めて見る方は面食らうかもしれませんが、キーワードは「圧電効果」や「共振」といった基本的なもので、これを押さえておけば、何とかなります。実際の回路の中に非常によく使われているので、動作原理は知っておいた方がよいでしょう。
 実物がどんなものか分からなければ、村田製作所のサイトなどで、「セラロック」という商標名で出ていますので、検索してみて下さい。

[1]圧電効果を利用したフィルタ素子

 その昔、音叉の共振を利用したフィルタ素子として、マイクロフォークというものがありました。入力で音叉をメカニカルに振動させ、音叉が固有振動数で振動することを利用して、その周波数だけを今度は電気信号として取り出すものです。
 実はここで出題されている素子も原理的には同じです。
HB0702_a 圧電フィルタの構造と動作原理
Fig.HB0702_a
圧電フィルタの構造と動作原理
 この素子は、問題の図にあるように、3つの電極が真中の材料をサンドイッチした形になっています。フィルタ素子なので、入力、出力、コモンの3本の電極があります。
 真中の材料は圧電セラミックで、電界を掛けると機械的歪を生じる(圧電効果)材料です。入力の電極とコモンの間に、様々な周波数成分を含んだ信号を掛けると、その信号に応じてセラミックが振動します(Fig.HB0702_a)。
 出力側の電極は、逆の圧電効果、すなわちセラミックの振動が電荷を生じることを利用して、信号を取り出す働きをします。
 ただ単に、入力に入れた信号が出力側からそのまま出てくるのでは、フィルタとして何の役にも立ちませんので、ここにフィルタとして働くような、工夫があります。

[2]フィルタそして機能する「共振」

 その工夫とは、このセラミックを機械的に「共振」させる、ということです。ここでいう「共振」とは、回路の場合と違い、メカニカルな振動の共振です。つまり、入力電極からドライブされた、いろいろな周波数の振動のうち、セラミックが持っている固有な共振周波数と合うものだけが生き残り、これが出力側の電極に圧電効果で出力される、というわけです。この共振の動作モデルは、Fig.HB0702_aのように直列共振で表されるので、フィルタとしては一般に特性は帯域通過(バンドパス)フィルタとなります。
 メカニカルな振動を利用するため、搭載機器自体が振動していると出力にノイズとなって現れるなどのデメリットはありますが、セラミックの形状や性質を制御することで、Q(通過帯域)や中心周波数を変えられるため、10.7MHzや455kHzといった、受信系(特にラジオ)の中間周波数のフィルタはほとんどこれが用いられています。

[3]発振回路への適用方法

 圧電効果を利用したセラミック振動子は、フィルタ以外にも発振子として用いられます。特に、水晶振動子を置き換える用途が急増しています。その動作を理解するため、等価回路と発振回路への応用例を見ておきます。
 まず、等価回路はFig.HB0702_b左のようになっています。お気づきの方もおられるかもしれませんが、この等価回路は水晶振動子と全く同じです。等価回路が同じでも、同じ電気的特性を持っている(=同様に使える)とは限りませんが、誤解を恐れず大雑把に言ってしまうと、水晶も同じ圧電性を持つ無機物なので、等価回路上での性質はさほど変わりません。
 CSは電極間の容量を意味します。セラミックの物質定数としての容量は、Cの方です。LCでの共振周波数をf0 [Hz]、CとCSが直列になったコンデンサを一つと見なした共振周波数をfSとすると、
HB0702_b セラミック振動子の等価回路と使用法
Fig.HB0702_b
セラミック振動子の等価回路と使用法
 
という式で表されます。よく見ると、(2)式の中に(1)式が含まれていますから、これを代入して、f0とfSには、
 
という関係があることが分かります。つまり、0よりもfSの方が高い、ということが必ず成立ちます(C>0なので)。
 この2つの周波数f0とfSはともに共振周波数ですが、f0は等価回路のLCRからなる直列共振の共振周波数を、fSは並列共振(反共振とも呼びます)の共振周波数を示しています。詳しいことは、専門文献に譲りますが、この0とfSの間で、この等価回路で示される回路は誘導性(周波数が上がるとともにインピーダンスも上がる)を示します(他の領域では、容量性)。発振回路としては、この周波数域を使用します。
 セラミック振動子は、トランジスタ回路でいうと、Fig.HB0702_b右のようなコルピッツ発振回路で用いられることが多く、その位置はこの図のXのようにB-C間に接続します。これも、水晶振動子と全く同じです。
 図のコルピッツ発振回路のXには、誘導リアクタンスが来ます。バルクハウゼンの発振条件式、というものがありますが、難しく考えなくても分かります。この回路図をC1、C2、Xという風に各素子を直列に一回りする閉回路を考えて下さい。閉回路では、誘導リアクタンスと容量リアクタンスが等しくなっていなければなりません。「一回りして元の位置に戻ってきたのだから、インピーダンスの総和はゼロ」でなければなりません。X以外は全てC(インピーダンスは負)なので、足してゼロになるには、Xは正(誘導性)でなければならない、というわけです。
 また、水晶振動子の置き換えが進んでいるのは、安価なためです。温度や振幅に対する周波数安定度が水晶よりも多少低いですが、通信以外の用途では、周波数に必ずしも高精度を求めない用途もあり、そのような用途では、コスト優先で採用されます。

[4]物理的な振動を利用しているが故の注意事項

 水晶振動子でもそうですが、セラミックの物理的な振動を電気信号に変換するため、インピーダンスマッチングが正しく取れていないと、本来の振動モードでないモードでの振動(周波数が本来と異なる)が起きることがあります。
 また、外部の機械的振動を拾って、本来の発振周波数からずれた所にスプリアスを生じる可能性があるので、実装には注意が必要です。

それでは、解答に移ります。
 …固有の機械的振動が発生する、というのですから圧電効果です
 …セラミックの形状などを変えて制御できるのはです
 …上にあるように帯域(通過)フィルタです
となりますから、正解はと分かります。