□ H18年12月期 A-09  Code:[HD0101] : オペアンプを用いた反転or非反転増幅回路の電圧増幅度・帰還抵抗値の計算
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2022年
12/31 12月期問題頁掲載
09/01 08月期問題頁掲載
05/14 04月期問題頁掲載
H1812A09 Counter
A-09 図に示す演算増幅器(オペアンプ)を使用した反転形電圧増幅回路の電圧利得が40 [dB]のとき、帰還回路の抵抗Rの値として、正しいものを下の番号から選べ。
 30 [kΩ]
 50 [kΩ]
100 [kΩ]
200 [kΩ]
300 [kΩ]
問題図 H1812A09a
Fig.H1812A09a

 オペアンプ(演算増幅器)は便利なICです。ここにあるように、抵抗が2本あればゲインが決まり、入力にいろいろな周波数(上限はありますが)に対しても直流に対しても、その一定のゲインで増幅するアンプが作れてしまいます。そのオペアンプについて調べて行きます。

[1]オペアンプは理想の増幅器

 現実には違いますが、試験に出てくるオペアンプは理想的なものと考えましょう。何が理想的なのかというと、
 (1) 利得(ゲイン)が無限大
 (2) 信号を増幅できる周波数帯域が無限大
 (3) 入力インピーダンスが無限大(入力電流がゼロ)
 (4) 出力インピーダンスがゼロ
 (5) 入出力の位相遅れがゼロ(入力が入れば即時に出力が出る)
 (6) 入力オフセット電圧がゼロ
というものです。現実にはありえないものばかりですが、ICメーカーは少しでもこの理想に近いオペアンプを作ろうと、開発を続けています。
 (6)については少し説明しておくと、オペアンプには反転入力(「−」の記号が付いたピン)と、非反転入力(「+」の記号が付いたピン)という2本の入力がありますが、後に述べるような帰還がかかって動作している状態では、この2本の入力間の電圧差のことをオフセット電圧といい、ゼロであることが理想です。

[2]反転増幅回路の動作はどうなっている?

 「反転」というのは、入力と出力の正負が逆になって出力される回路、ということです。この回路がオペアンプの動作の基本となります。回路は、Fig.HD0101_aのように構成します。
 問題文に「増幅器の入力インピーダンスは無限大とする」という但し書きが付いている場合もない場合もありますが、オペアンプが出てきたら、上に書いたような理想の条件は前提である、と解釈して(回路を設計する実務の問題ではなく、電子回路学としての「演算増幅器」と捉えて)解いて下さい。
 入力インピーダンスが無限大ということは、反転・非反転入力側に流れ込む(あるいは流れ出す)電流はともにゼロだということです。
 もう一つ、オペアンプによる増幅回路(負帰還回路)を考える時に重要なことは、オペアンプが(発振回路やコンパレータとしてでなく)増幅回路として動作している時には、反転入力と非反転入力が同じ電圧になっている、ということです。Fig.HD0101_aでいうと、P点の電位がGNDと同じだ、(現実のオペアンプではGNDぴたりではありません)ということです。
Fig.HD0101_a 反転増幅回路の構成と動作
Fig.HD0101_a
反転増幅回路の構成と動作
 では、入力から順を追って考えてみましょう。2つの入力の電位が同じ(図中でP点の電位α≒0)なのですから、R1には片側が基準電位(GND)でもう片方がVinがかかっていることになります。従ってR1に流れる電流Iinは、
 Iin=Vin/R1 …(1)
となります。一方、R2に流れる電流を考えると、反転入力には電流が流れこまない(入力インピーダンス=∞)ため、R1に流れる電流、すなわちIinがそのままR2にも流れていることになります。
 R2の両端に発生する電圧V2は(オームの法則から)、
 V2=−Iin2 …(2)
となります。なぜマイナスがつくかというと、Fig.HD0101_aで電流Iinの向きを見ると、反転入力ピンよりも出力ピンの方が低電位であることが分かりますので、入力が正の電圧であれば、出力は負になるためです。
 (2)式のIinに(1)式を代入して、V2を求めると、
 V2=−(Vin/R1)R2=−(R2/R1)Vin …(3)
従って、この回路の電圧利得Giは、
 i=−R2/R1 …(4)
となります。
 出力は極性が反転するので位相は逆位相、ということになります。(理想オペアンプが前提なので、入力が遅れて出てくることで出力の位相が180°遅れるのではないことに注意。)
 この回路の入力インピーダンスですが、入力端子からみると、見かけ上R1がGNDに接続されているのと同じなので、R1の値そのものになります。オペアンプ単体の入力インピーダンスは(実世界では)GΩオーダーも珍しくありませんが、反転回路にしてしまうと、そんなに大きくできないことが分かります(せいぜい数100 [kΩ])。
 この回路の動作のミソは、非反転入力がGNDに落ちているなら、反転入力もGNDであるということと、(オペアンプの)入力電流がゼロなので、R1に流れた電流がそのままR2に流れる、というところです。これさえ分かれば、テストの時に利得の式を忘れても、導き出せます。
 上で、「非反転入力がGNDに落ちているなら、反転入力もGND」と書きましたが、現実のオペアンプではこれはウソです。オペアンプは反転入力と非反転入力の電圧の差を増幅する回路なので、両入力が厳密に同じ電位になってしまうと、出力は0 [V]になってしまいます。
 ですが、普通のオペアンプでは、負帰還を掛けない状態の電圧利得(オープンループゲインといいます)が数千倍から百万倍以上あります。オープンループゲインが1万倍のオペアンプを使って負帰還を掛け、出力に+1 [V]が出ている反転増幅器があったとすると、反転−非反転入力間は1/10000 [V]=0.1 [mV]しか電位差がない計算になります。従って、ほぼ同電位と見なせる、ということです。


[3]非反転増幅回路の動作はどうなっている?

 オペアンプを用いた回路には、上記のように入出力の極性が反転してしまう回路と、そうでない「非反転」な回路も構成できます。ここでは、Fig.HD0101_bのように構成した非反転増幅回路を見て行きましょう。
 上で見たように、反転入力と非反転入力は同じ電圧なので、P点の電位はVinと等しくなります。
Fig.HD0101_b 非反転増幅回路の構成と動作
Fig.HD0101_b
非反転増幅回路の構成と動作
 つまり、図の中のV1とVinは同じで、
 V1=Vin …(5)
です。R1に流れる電流Ioは、R1の片側がGNDに落ちているので、
 Io=V1/R1 …(6)
となります。入力電流が流れないので、反転増幅回路のときと同じように、R2にもIoの電流が流れます。従って、R2の両端に発生する電圧V2は、
 V2=Io2 …(7)
さらに、Ioに(6)を代入して、
 V2=V1(R2/R1) …(7)
出力Voutは、V1とV2の和だから、
 Vout=V1+V2=V1+V1(R2/R1)
   =Vin(1+R2/R1) …(8)
よって、この増幅回路の電圧利得Gnは、
 n=Vout/Vin=Vin(1+R2/R1)/Vin
   =1+R2/R1 …(9)
となります。こちらにはゲインに負号がついていません。入力と出力は同じ極性になります。
 入出力は同じ極性(であることと、理想オペアンプなので入出力に時間的遅れはない)なので位相は同位相です。
 ここでのミソも、非反転入力がVinなら、反転入力も同じ電圧であるということと、入力電流がゼロなので、R1に流れた電流がそのままR2に流れる、というところです。(4)式と(9)式を見比べると、両方の回路でR1とR2が同じなら、絶対値で、非反転回路のゲインの方が1だけ大きいことが分かります。
 この回路の入力インピーダンスですが、反転増幅回路と異なり、オペアンプの足そのものが入力になっています。このため、入力インピーダンスはオペアンプの入力インピーダンスそのものとなり、オペアンプにも依りますが、数[MΩ]〜数[GΩ](106〜109 [Ω])程度の非常に大きな値が比較的容易に得られます
 電圧利得の式(4)や(9)を求めるのに、試験の場で上に書いたようなことを計算していると、時間が足りなくなってしまいますから、暗記も必要でしょう。ただ、似たような回路で似たような式なので、どちらがどちらか、思い出せない時は、上のような2つのポイント(オペアンプの入力電流ゼロ、反転・非反転の入力が同じ電位)を思い出して公式を導出して下さい。

それでは、解答に移ります。
 電圧利得が40 [dB]だというので、倍数に直すと、10(40/20)=100倍と分かります。
 反転増幅回路の利得の式(4)と照らし合わせてみれば、Rが3 [kΩ]の100倍であればいいわけで、R=300 [kΩ]です。従って、正解はと分かります。