□ H16年12月期 B-05  Code:[HI0502] : 電離層の擾乱現象のうち、地磁気嵐とデリンジャ現象の特性と発生原因の対比
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2022年
12/31 12月期問題頁掲載
09/01 08月期問題頁掲載
05/14 04月期問題頁掲載
H1612B05 Counter
無線工学 > 1アマ > H16年12月期 > B-05
B-05 次の記述は、短波帯の電波伝搬について述べたものである。[ ]内に入れるべき字句を下の番号から選べ。
 デリンジャ現象は、受信電界強度が突然[ア]なり、この状態が短いもので数分、長いもので[イ]続く現象であり、電波伝搬路に[ウ]部分がある場合に発生する。また、受信電界強度がデリンジャ現象のように突然変化するのではなく、徐々に低下し、このような状態が数日続くじょう乱現象を[エ]という。これらの発生原因は[オ]に起因している。
数カ月 高く 数時間 電離層(磁気)あらし 夜間
潮の干満 日照 K形フェージング 低く 10 太陽活動

 HF以下の伝搬異常現象のうち、磁気嵐とデリンジャ現象は、良く対比して出題されます。双方とも太陽現象が原因となっているためですが、名前と特徴を結び付けておきましょう。最近は、これらの現象に対して、宇宙天気情報センターのページやここでのメーリングリストサービスなどで、配信されていますので、利用すると良いでしょう。

[1]太陽表面で何が起こっているか

 まず、これらの異常現象を調べる前に、予備知識として太陽表面で起こっていることを調べておきましょう。なお、以下の記述は、研究者向けでなく、我々素人にも分かりやすく書かれた、独立行政法人情報通信研究機構宇宙環境情報テレホンサービスガイドを参考にしました。また、JARLに入会されている方は、JARL NEWS 2006年秋号及び2008年冬号の特集を参照下さい。電離層や太陽の物理現象が専門家の手により(私が書くよりもずっと深く、易しく)解説されています。

 太陽の表面には時々黒点が現れ、これが(太陽の磁極の反転の周期である)約11年周期で増減して、短波帯の伝搬に大きな影響を与えていることはご存知かと思います。これを書いている現在は、サイクル23の終焉が過ぎ、次のサイクル24が始まったか始まらないか、というところです。では、太陽の黒点が短波の伝搬に何故影響するのでしょうか?
 それは、一言で言うと、太陽の表面から放射される電磁波(主に短波長の紫外線やX線などエネルギーの大きな電磁波)や粒子が電離層や地球の磁気圏に大きな影響を与え、その放射頻度や強度が太陽の黒点活動と密接に関わっているからです。もっと正確に書くとこうなります。
 太陽の黒点からは時折、「フレア」と呼ばれる炎のような高温のプラズマが噴出することがあり、ここから強力なX線や紫外線や高速のプロトン(陽子)が放射されます。このうち、X線や紫外線は電離層の電離を促進させて電子密度を上昇させ高速なプロトンは大電流となって元々ある地球の磁場を撹乱します
 X線や紫外線は大気に吸収され、高速のプロトンは地球の磁場に巻きついて両極(南極、北極)に集束してしまいますので、我々の人体に影響はほとんどありませんが、大気の薄い宇宙空間を飛んでいる人工衛星は、こんな物騒なものが飛来しては、たまったものではありません。実際、太陽電池パネルが損傷したり、衛星のコンピュータがエラーを起こしたりして、障害となることがあります。
 このように、太陽はその黒点と時折起こる爆発=フレアによって、我々の無線のアクティビティだけでなく、生活にも影響を与えているのです。

[2]デリンジャ現象はなぜ起こる?

 上で書いたように、フレアに伴って太陽から強力なX線や紫外線が放射されることがあります。X線や紫外線はものをイオン化(電離)する働きが強いので、地球の大気がある部分に到達すると、大気を構成する酸素や窒素をイオン化します。つまり、電離層にしてみれば、X線や紫外線が十分な強度で当たりつづければ、その電子密度がどんどん上昇することになります。X線や紫外線は特に大気の密度が高い下層の電離層(主にD層)で多く吸収され、ここでの電子密度を上昇させます。
 通常、HFの14 [MHz]以上では、D層の第一種減衰(通過する時の減衰)が少ないので、F層反射が有効ですが、太陽からのX線や紫外線が増加して電離層の電子密度が上昇すると、第一種減衰が増加して通信不能になります。これがデリンジャ現象です。F層反射では、D層の通過が2回ありますから、減衰量は2倍(減衰率で2乗)となり、大きく効いてきます
 デリンジャ現象の源はX線や紫外線という(質量を持たない)電磁波です。太陽でフレアが起こると即座に(と言っても、電磁波でも太陽から地球まで約8分かかります)この現象が現れますから、始まり方も終息も変化が急です。太陽が当たっていない場所では、この現象は起こりません。また、低緯度ほど単位面積あたりの照射量が多いので、影響が大きいといえます。
 早い話が、デリンジャ現象は昼間に(主にD層の)電子密度が急上昇して、第一種減衰が増えて通信できなくなる現象です。

[3]磁気嵐(地磁気嵐)はなぜ起こる?

 次は磁気嵐の原因を探ります。太陽の黒点やフレアといった現象は、デリンジャ現象の原因となるX線や紫外線の他に、高速のプロトン(陽子)を大量に放出することは、上でも述べました。「電子が剥ぎ取られた水素原子」ともいえるプロトンは、プラスの電荷を持っていますから、これが大量に流れれば「大電流」となります。
 プロトンが地球に到達すると、地球磁場の磁力線に巻きつくようにらせん状に運動しながら、南極、又は北極に集束します。ここで、大気の酸素や窒素と衝突してそれらを励起状態(エネルギー的に高い状態。イオン化には至らない)を作り出すために、これらが発光する現象がオーロラだと言われます。
 太陽風が強い南向きの磁場を持っていると、地球に元々あった磁場が弱まり、あるいは反転するほどまでになります。こうなると、まず、高緯度でのF層の電子密度が低下し、MUFが低下します。時間が経つにつれて中緯度地方にもこれが及び、大規模な場合は数時間から数日に亘ってHFでの通信が不能になります。これが磁気嵐(地磁気嵐)です。
 太陽現象がほぼ即座に影響するデリンジャ現象とは異なり、プロトンは質量を持つので、フレアが発生してから地球に到達するまで30分〜数日を要し(要するにスピードが遅い)、さらに磁気嵐に発達するまでに数時間から数日程度の時間がかかるので、昼間であるか夜間であるかには関係ありません。また、地球磁場の喪失・反転ですから、地球全体で起こります
 磁気嵐を要約すると、地磁気の乱れによってF層の電子密度が徐々に低下し、MUFが低下して突き抜けてしまうために、昼夜の別なく通信ができなくなる現象です。

 このように、デリンジャ現象と磁気嵐では、HFで通信ができない、という現象面では同じであるものの、その発生原因(X線・紫外線とプロトンか)や特性(昼間のみか太陽高度に無関係か)が明確に異なっています。これを把握しておきましょう。

それでは、解答に移ります。
 …デリンジャ現象は、受信電界強度が突然9低くなる伝播異常です
 …デリンジャ現象の持続時間は長くて3数時間です
 …デリンジャ現象は7日照のある部分でしか起こりません
 …デリンジャ現象よりゆっくり始まるのは4電離層(磁気)あらしです
 …これらは、10太陽活動(ことに黒点とフレア)に依存しています
となります。