□ H16年04月期 A-09  Code:[HB0601] : CRまたはLRからなる2素子の回路の矩形波に対する時間応答波形
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09/01 08月期問題頁掲載
05/14 04月期問題頁掲載
H1604A09 Counter
無線工学 > 1アマ > H16年04月期 > A-09
A-09 図1に示す幅Tの方形波電圧を図2に示す回路の入力端子に加えたとき、出力端子に現れる電圧波形として、最も近いものを下の番号から選べ。ただし、tは時間を示し、時定数 L/R<T とする。
問題図 H1604A09a
Fig.H1604A09a
問題図 H1604A09b
Fig.H1604A09b
問題図 H1604A09c
Fig.H1604A09c

 この問題は、抵抗とリアクタンスからなるフィルタに、方形波を通した時に出力される信号の波形を問うています。このように、急激に変化する信号に対する回路の応答を、過渡応答といいます。正弦波交流が常にかかっている状態とは違う解析法を取らなければなりませんが、原理さえ分かっていれば、怖くありませんので、動作を追って見ていきます。
 ここでは、リアクタンスとしてコイルを使っていますが、コンデンサを使った場合も出題されます。また、抵抗とリアクタンスの位置が入れ替わったり、バリエーションがあります。一つやるのも他の組合せをやるのも、大した違いは無いので、一気に全てカバーしてしまいます。

第1部 コイルと抵抗の組合せの過渡応答

 まず、コイルと抵抗の組合せについて考えてみます。
 HB0601_aの左端のような回路において、SWが切り替わる瞬間について考えます。電源の電圧をE0 [V]、コイルの両端に発生する電圧をEL [V]、抵抗の両端に発生する電圧をER [V]とし、流れる電流をI [A]とします。スイッチを切り替えた時間をt=0 [s]として回路方程式を立てます。
Fig.HB0601_a コイルと抵抗からなる回路の過渡応答
Fig.HB0601_a コイルと抵抗からなる回路の過渡応答

[1]電圧の立ち上がりでの過渡応答

(1) コイルは電流の変化を妨げる素子

 まず、t<0にはスイッチはbにあり十分時間が経っているものとして、t=0でaに切り替える場合を考えます。コイルと抵抗の両端のそれぞれの電圧は、
 EL=L(dI/dt) …(1)
 ER=IR …(2)
これらの和が電源電圧に等しいので、
 EL+ER=E0 …(3)
 L(dI/dt)+IR=E0 …(4)
この微分方程式を解けば電流が求められるのですが、ここでは数学の勉強をしているわけではないので、答えは与えられたものとして話を進めます。要は、数式と物理的意味が(頭の中で)繋がって、結果が物理現象として理解できればかまわないと思います。
 但し、微分方程式を解く時の「初期条件」は押さえておきましょう。最初、スイッチはb側に倒れていたので、t<0で電流I=0です。t=0にスイッチをaに切り替えた瞬間、電流は流れ始めようとしますが、コイルは電流の変化を妨げる素子(レンツの法則)なので、電流はすぐには流れ始めません。すなわち、t=0においてはI=0なのです。
 一方、時間が十分経った後、(数学的に言うとt→∞)はコイルは直流に対してショートですから、電流は抵抗のみで制限され、
 I(t→∞)=E0/R …(5)
となります。この条件で(4)の微分方程式の解を求めると、
 T=(E0/R){1−exp(-Rt/L)} …(6)
となります。確かにt=0で(6)式の値は0ですし、t→∞ではE0/Rとなりますから正しそうです。今度は、(6)と(1),(2)の各式を元に抵抗とコイルの両端の電圧を求めてみましょう。
 EL=L(dI/dt)=E0exp(-Rt/L) …(7)
 ER=IR=E0{1−exp(-Rt/L)} …(8)
式だけではよく分からないので、これらをグラフにしたのがFig.HB0601_aの中ほどの図です。Iが緑色Rが青Lが赤で示してあります。スイッチをaに切り替えた瞬間、コイルが電流をゼロのまま止めようと、電源電圧と等しいだけの逆起電力を発生させているのが分かります。

(2) 電流・電圧の変化の急峻さは抵抗値とインダクタンスで決まる

 これを見ると、コイル両端の電圧はE0から徐々に減衰してゼロに近づき、反対に抵抗両端の電圧は徐々にE0に近づいて行きます。t=L/R [s]の時にはELは初期値E0の36.8%(=1/e)、ERはE0の63.2%(=1−1/e)となります。電流Iは、電圧と同様の変化で、定常状態での値(I=E0/R)の63.2%まで増加します。この、36.8%や63.2%という値は、他の問題でも出てきますので、覚えておいた方がよいでしょう。何しろ、電気の分野に限らず、急峻に変化する自然現象では非常によく出てくる値です。
 この電圧や電流の変化の「速さ」は、t=L/R [s]で決まります。このL/Rを時定数(「じていすう」又は「ときていすう」)と呼び、Tで表すことが多いです。このTは過渡応答の速度を表します時定数が小さいほど早く定常状態に落ち着くわけで、このRとLの回路の場合、抵抗値が大きいほど、またインダクタンスが小さいほど時定数が小さくなります。ここまでの説明や問題などで「十分長い時間」と書いてあるのは、T≪tという時間tのことを言っています。
 まとめると、抵抗とコイルの直列からなる回路に立ち上がり電圧を印加すると、抵抗の両端電圧は0から徐々に増加して電源電圧に至り、逆にコイルの両端電圧は電源電圧から減少して0に近づく、という変化をします。変化の速さは時定数Tで表され、この回路の場合T=L/Rで表されます。

[2]電圧の立ち下がりでの過渡応答

(1) 電圧源がないので回路の起電力の和はゼロ

 今度は逆にSWを十分長い時間a側にしておいて、bに切替えた時の様子を考えましょう。上と同様にI、EL、ERについて微分方程式を立てると、(1),(2)式は全く同じですが、(3),(4)式が異なります。回路に電源はなくなっているので、
 EL+ER=0 …(9)
 L(dI/dt)+IR=0 …(10)
これを解くのに、今回の「初期条件」を押さえておきましょう。最初、スイッチはa側に倒れていたので、t<0で電流IはE0/Rです。t=0にスイッチをbに切り替えた瞬間、電流はゼロになろうとしますが、ここでもコイルは電流の変化を妨げる素子なので、電流はすぐにはゼロにはなりません。すなわち、t=0ではI=E0/Rです。
 一方、時間が十分経った後では、電流はゼロになります。すなわち、
 I(t→∞)=0 …(11)
となります。この条件で(10)の微分方程式の解を求めると、
 T=(E0/R)|-exp(-Rt/L)} …(12)
となります。t=0で(12)式の値はE0/Rで、t→∞で0になります。上と同様に、(12)と(1),(2)の各式を元に抵抗とコイルの両端の電圧を求めてみましょう。
 EL=L(dI/dt)=-E0exp(-Rt/L) …(13)
 ER=IR=E0{exp(-Rt/L)} …(14)

(2) コイルの両端からは負の電圧を作り出せる

 これらをグラフにしたのがFig.HB0601_aの右の図です。スイッチを入れた瞬間は、コイルが電流をE0/Rのまま保とうと、マイナスの逆起電力を発生させているのが分かります。正の電源しかない回路から、負の電圧を作り出すことができる…実はこれが、負電圧も得られるDC-DCコンバータ(中身はスイッチング電源)の原理だったりします。
 コイル両端の電圧は−E0から徐々に減衰してゼロに近づき、反対に抵抗両端の電圧はE0から0に近づいて行きます。t=L/R [s]の時にはELは初期値−E0の36.8%(=1/e)、ERもE0の36.8%となります。電流Iは、電圧と同様の変化で、定常状態での値(I=E0/R)の36.8%まで減少します。このあたりは立ち上がりのケースと符号が違うだけで、原理は同じです。時定数に関しても定義は同じです。

第2部 コンデンサと抵抗の組合せの過渡応答

 次に、コンデンサと抵抗の組合せについて考えてみます。
 HB0601_bの左端のような回路を考え、SWが切り替わる瞬間について考えます。電源の電圧をE0 [V]、コンデンサの両端に発生する電圧をEC [V]、抵抗の両端に発生する電圧をER [V]とし、流れる電流をI [A]とします。スイッチを切り替えた時間をt=0 [s]として回路方程式を立てます。
Fig.HB0601_b コンデンサと抵抗からなる回路の過渡応答
Fig.HB0601_b コンデンサと抵抗からなる回路の過渡応答

[1]電圧の立ち上がりでの過渡応答

(1) コンデンサは電荷がない状態では「ショート」

 まず、t<0にはスイッチはbにあり十分時間が経っているものとして、t=0でaに切り替える場合を考えます。コンデンサに電荷はありません。コンデンサと抵抗の両端のそれぞれの電圧は、
 EC=(1/C)∫Idt …(15)
 ER=IR …(2)
これらの和が電源電圧に等しいので、
 EC+ER=E0 …(16)
 (1/C)∫Idt+IR=E0 …(17)
この積分方程式を解けば電流が求められるのですが、これも答えは与えられたものとして話を進めます。これまでと同様、この方程式を解く時の「初期条件」は押さえておきましょう。最初、スイッチはb側に倒れていたので、t<0で電流I=0です。t=0にスイッチをaに切り替えた瞬間、電流が流れ始めます。コンデンサは電荷が溜まっていない状態ではショートと同じです。つまり、t=0において、電流は抵抗のみで決まり、
 I=E0/R …(18)
です。一方、時間が十分経った後はコンデンサは直流に対して∞ [Ω]ですから、電流は0となります。この条件で(17)の積分方程式の解を求めると、
 T=(E0/R){exp(-t/CR)} …(19)
となります。t=0で(19)式の値はE0/Rで、t→∞では0となりますから正しそうです。これまでと同様、(18)と(16),(2)の各式を元に抵抗とコンデンサの両端の電圧を求めてみましょう。
 EC=(1/C)∫Idt=E0{1−exp(-t/CR)} …(20)
 ER=IR=E0exp(-t/CR) …(21)
これらをグラフにしたのがFig.HB0601_bの中ほどの図です。Iが緑色Rが青Cが赤で示してあります。スイッチをaに切り替えた瞬間は、コンデンサはショート状態ですから両端の電圧が0で、電源の電圧はすべて抵抗にかかっていることが分かります。

(2) 抵抗が小さいほど、容量が小さいほど変化のスピードは速い

 これを見ると、抵抗の電圧はE0から徐々に減衰してゼロに近づき、反対にコンデンサの電圧は充電されるとともに徐々にE0に近づいて行きます。t=CR [s]の時にはECはE0の63.2%(=1−1/e)、ERはE0の36.8%(=1/e)となります。電流Iは、電圧と同様の変化で、初期値(I=E0/R)の36.8%まで減少します。
 ここでも、電圧や電流の変化の「速さ」は、t=CR [s]で決まります。このCRを時定数と呼ぶのはコイルと抵抗の場合と同じで、これもTで表すことが多いです。時定数が小さいほど早く定常状態に落ち着くのもコイルの場合と同じで、このRとCの回路の場合は、抵抗値が小さいほど、また容量も小さいほど時定数が小さくなります。
 まとめると、抵抗とコンデンサの直列からなる回路に立ち上がり電圧を印加すると、抵抗の両端電圧はE0から徐々に減少して0に至り、逆にコンデンサの両端電圧は0から増加してE0に近づく、という変化をします。変化の速さは時定数Tで表され、T=CRで表されます。

[2]電圧の立ち下がりでの過渡応答

(1) コンデンサの両端の電圧は急に変化しない

 今度は逆にSWを十分長い時間a側にしておいて、bに切替えた時の様子を考えましょう。上と同様にI、EC、ERについて積分方程式を立てると、(15),(2)式は全く同じですが、(16),(17)式が異なります。回路に電源はなくなっているので、
 EC+ER=0 …(22)
 (1/C)∫Idt+IR=0 …(23)
これを解くのに、今回も「初期条件」を押さえておきましょう。最初、スイッチはa側に倒れていたので、t<0で電流Iは0です。t=0にスイッチをbに切り替えた瞬間、コンデンサから電流が流れ始めて電流は最終的にゼロになろうとしますが、コンデンサは電圧の変化を妨げる素子なので、両端電圧はすぐにはゼロにはなりません。すなわち、t=0ではコンデンサから電源と逆向きの電圧がかかりI=-E0/Rとなります。
 一方、時間が十分経った後では、コンデンサは放電し電圧も電流もゼロになります。すなわち、
 I(t→∞)=0 …(24)
となります。この条件で(23)の積分方程式の解を求めると、
 T=(-E0/R){exp(-t/CR)} …(25)
となります。確かにt=0で(25)式の値は−E0/Rで、t→∞で0になります。上と同様に、(25)と(2),(15)の各式を元に抵抗とコンデンサの両端の電圧を求めてみましょう。
 EC=(1/C)∫Idt=-E0exp(-t/CR) …(26)
 ER=IR=E0exp(-t/CR) …(27)

(2) 本質はコンデンサの放電

 これらをグラフにしたのがFig.HB0601_bの右の図です。スイッチを入れた瞬間は、コンデンサがその両端電圧をE0のまま保とうとしますから、抵抗にとっては電源と逆向きの電圧−E0がかかります。これも、コイルの時と同様、正の電源しかない回路から、負の電圧を作り出すことができるのですが、今度は負電圧が生じるのが抵抗の両端になっています。
 コンデンサ両端の電圧はE0から徐々に減衰してゼロに近づき、反対に抵抗両端の電圧は−E0から0に近づいて行きます。t=CR [s]の時にはECは初期値E0の36.8%(=1/e)、ERも−E0の36.8%となります。電流Iは、電圧と同様の変化で、−E0/Rの36.8%まで減少します。このあたりは立ち上がりのケースと符号が違うだけで、原理は同じです。時定数に関しても定義は同じです。
 ここでの現象は、本質は充電されたコンデンサの放電現象ですから、いたるところで見られます。例えば、定電圧電源に負荷を繋いだまま100V電源を切れば、電圧計の読みは、時間とともにexp(-t/CR)の曲線になります。負荷が軽けれ(Rが大)ば、また、平滑回路のCが大きければ大きいほど、電圧はなかなか下がりません。

第3部 方形波電源に繋いだ時の過渡応答

 やっとのことで問題に近づいてきました。ここから先はもうほとんど問題の答えです。
 Fig.HB0601_cに、上に見てきたLR直列回路、CR直列回路の過渡応答をまとめてみました。各々、Rの両端から電圧を取り出す場合と、LやCの両端から電圧を取り出す場合で波形が違いますので、別のグラフにしてあります。

Fig.HB0601_c 様々なパターンの方形波電源に対する過渡応答
Fig.HB0601_c 様々なパターンの方形波電源に対する過渡応答
 これを見ると、おもしろいことにコイルでもコンデンサでも、信号の取り出す位置を選べば、応答が同じ組合せが可能(例えば[1]と[4]、[2]と[3])であることが分かります。また、同じ回路でもリアクタンス(LorC)の両端から電圧を取り出すか、抵抗の両端から取り出すかで、動作が反対になります。
 よく、立ち上がりがなまった波形、という言い方をしますが、LRの直列で構成した回路では、抵抗の両端から電圧を取り出すと、なまった波形が得られます。逆に、オーバーシュート、アンダーシュートのような波形は、コイルの両端から取り出せます。
 次に、抵抗とコンデンサの直列回路から電圧を取り出すことを考えると、コンデンサの両端から電圧を取り出せばなまった波形が、抵抗の両端から取り出せば、オーバーシュート、アンダーシュートのような波形が得られます。
 この問題の範囲からは外れますが、これらの回路はLPF(Low Pass Filter)やHPF(High Pass Filter)です。LPFでは方形波の高周波成分が除去されて波形がなまり、HPFでは直流成分や低周波成分が除去された結果、方形波の急峻に変化する成分(高周波成分)だけが取り出されます。
 ここまで書いてきて「じゃぁ、なんだったんだよ」と言われそうですが、今まで述べてきたような数式の知識は不要です。コイルが急激な電流の変化に対しては逆起電力で抵抗すること、コンデンサの両端の電圧を急変させようとすると、溜まっていた電荷が放出されてその変化を妨げようとすること、この2点と、回路図を良く見れば答えは出ます。

それでは、解答に移ります。
 この問題は、LR直列の回路で抵抗の両端の電圧を取り出しているので、[2]のケースです。従って、出力波形はが正解、ということになります。ちなみに、誤答である選択肢のうち、抵抗とコイル又はコンデンサの組合せの単純な回路では、2や5のような波形にはなり得ません。