□ H15年12月期 A-23  Code:[HI0504] : 電波の散乱による見通し外・不感地帯への伝搬
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2022年
12/31 12月期問題頁掲載
09/01 08月期問題頁掲載
05/14 04月期問題頁掲載
H1512A23 Counter
無線工学 > 1アマ > H15年12月期 > A-23
A-23 次の記述は、電波の散乱現象について述べたものである。[ ]内に入れるべき字句の正しい組合せを下の番号から選べ。
 電波の散乱現象は、物体によるものだけに限らず、通常、大気中の[A]にむらがある場合に生ずる。また、短波(HF)帯の[B]において弱い電波が受信されることがあるのは、[C]の乱れによって生ずる電波の散乱によるものと考えられている。

誘電率 不感地帯 電離層
誘電率 見通し距離内 大気
透磁率 不感地帯 電離層
透磁率 見通し距離内 大気

 電波は波の性質を持っているので、光や音波と同様の現象が起こります。ここで問題になっている「散乱」というのは、波が一様な媒質中を一方向に進んで行く途中、波長より短いスケールの媒質の乱れや別の物質に遭遇すると、進行方向が不定になる、という現象です。例えば、空気中を光が進む場合、そこに煙を入れてやると光の通路が見えるのは、煙という空気とは異質のものに光が散らされて、目に入るからです。

[1]空気の誘電率のムラ

 まず、我々の周囲にある空気ですが、均質なように見えて、実は様々な気象現象等によって局所的に変化しており、一様ではありません
Fig.HI0504_a 大気による散乱・電離層による散乱
Fig.HI0504_a
大気による散乱・電離層による散乱
 もう少し詳しく言えば、密度や温度が局所的に周囲と異なる部分があって、そのような部分では空気の誘電率が周囲と異なります。選択肢には、透磁率が現れることがありますが、空気は磁性体ではないので、透磁率はほとんど変わりません透磁率と誘電率の積の平方根が屈折率なので、屈折率にムラがある、と言っても実質変わりはありません)。
 そのような不均一な部分に電波が入射すると、Fig.HI0504_aのように電波が散乱され、HF等では、直接波や地表波が届かない不感地帯に弱い電波が届くことがあります。
 一般に、このような散乱にはほとんど方向性がない(特定の方向に進むのでなく、文字通り「散らされる」)ので、受信電界強度は弱いものです。
 また、大気による散乱現象は、誘電率が時間と共に変化しますから、受信側ではフェージングとなります。このフェージングを、シンチレーションフェージングと呼びます。

[2]電離層の電子密度のムラ

 空気の誘電率と同様のことが、電離層にも起こります。電離層の場合は、誘電率ではなく、電子密度の不均一です。電離層は、酸素や窒素など大気を構成する気体がイオン化したものですが、大気そのものにムラがあるように、電子密度にもムラができます。
 原因としては、(はっきりとしたことは分かりませんが)太陽からのX線や紫外線など、電離作用を持つ電磁波そのものの強度の変動や局在、大気の揺らぎなど様々な要因が絡んでいると考えられます。
 電子密度の不均一性が、波長よりも十分小さいスケールで起こった場合、電波が散乱されて、これも弱いながらも不感地帯に到達することがあります(Fig.HI0504_a)。
 なお、電離層の電子密度揺らぎによる散乱現象も受信側でフェージングとなります。このフェージングもシンチレーションフェージングといいますが、大気の誘電率の揺らぎと区別するため、電離層シンチレーションフェージングと区別して呼ぶこともあります。

 この問題とは離れますが、430 [MHz]等では「流星散乱通信」を行なっている方も居られます。まさに文字通り、大気圏に突入した流星に電波を当てて散乱させるものですが、流星群が訪れる時でないと通信できない上、信号が弱いために高利得と電力とを必要とします。また、通信可能な時間も流星群が尽きてしまうまでのごくわずかです。EMEと同じく、やられている方々のアマチュアスピリットには敬意を表します。

それでは、解答に移ります。
 …ここでは大気の誘電率にムラがある場合を議論しています
 …見通し距離内は電波が届いて当然なので、ここは不感地帯です
 …HFで遠距離でこの現象が起こるのは電離層のムラによるものです
となりますから、正解はと分かります。