□ H14年12月期 A-12  Code:[HE0501] : IDC回路の構成・特徴・動作
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2022年
12/31 12月期問題頁掲載
09/01 08月期問題頁掲載
05/14 04月期問題頁掲載
H1412A12 Counter
無線工学 > 1アマ > H14年12月期 > A-12
A-12 次の記述は、FM(F3)送信機に用いられるIDC回路の働きについて述べたものである。このうち正しいものを下の番号から選べ。
送信機出力電力が規定値以内となるようにする。
水晶発振器の周波数の変動を防止する。
最大周波数偏移が規定値以内になるようにする。
電力増幅段に過大な入力が加わらないようにする。

 FM送信機では、IDC回路が良く出題されます。IDC回路とは、Instantaneous Deviation Control(瞬時周波数制御)回路の略です。一言で言ってしまえば、周波数偏移が規定を超えないよう、信号波を加工する回路です。回路構成と各々の部分の働きを見て行きます。

[1]IDC回路の役割は周波数偏移を規定値内に収めること

 まず、IDC回路の役割ですが、FM送信機の中で、周波数偏移をある一定の範囲内に収める働きをします。
 こうしないと大きな音声や高い周波数の入力が入った時、周波数偏移が(法規で定める)占有周波数帯幅を超えてしまうからです。SSB送信機には似たような回路で、電力増幅段のオーバードライブを防ぐALC回路というのがありましたが、IDC回路はこういった送信電波の質を保つ回路のひとつです。
 FM変調についても少し復習しておきましょう。FM変調を掛ける際、信号波の振幅が大きいほど、また周波数が高いほど、変調波の周波数偏移は大きくなります。ですから、周波数偏移をある範囲に抑えたければ、これらの両方を何かしらの方法で制限しなくてはなりません。

[2]IDC回路の構成

 「微分」や「積分」という難しげ?な数学用語が出てきますが、電子回路ではそれぞれ「高域強調(又は低域減衰)」と「低域強調(又は高域減衰)」という処理をすることだと思ってほぼ間違いないでしょう。
 それを予備知識とした上で、IDC回路の構成を見てみましょう。概略は右図Fig.HE0501_aのようになっています。マイク入力はまず微分回路に入り、リミッタ(試験問題では「クリッパ」となっていますが、同じ物と思って下さい)で一定振幅以上の振幅にならないよう、制限をかけます
 その後段で、積分回路にかけ、FM変調器の入力とします。各段にある低周波増幅回路は、信号を増幅(バッファ)するだけですので、IDC回路の本質にはあまり関係ありません。
Fig.HE0501_a IDC回路の構成
Fig.HE0501_a
IDC回路の構成
 この回路を理解するキーは、微分・リミッタ・積分のそれぞれの働きとこの並び順にあります。

[3]IDC回路の各部の働き

Fig.HE0501_b IDC回路内の微分・振幅制限・積分の周波数特性
Fig.HE0501_b IDC回路内の微分・振幅制限・積分の周波数特性
(1) 微分回路とリミッタ(クリッパ)の動作
 まず、微分回路はどんな働きをするのか、見てみましょう。Fig.HE0501_bの左側のグラフの緑色の線(と茶色の線)を見て下さい。このグラフは、微分回路の周波数特性で、縦軸が(出力)振幅の対数を取ったもの、横軸が周波数の対数を取ったものです(電気回路では、周波数特性は通常、両対数で表します)。
 このグラフを見ると、「微分」なんて数学用語を使わなくても、高域強調アンプ(又はフィルタ)じゃないか、と分かった方もおられるでしょう。入力周波数に比例して大きな振幅が得られる回路は、まさに高域強調回路です。
 要するに、微分回路とは、入力周波数が一定なら、入力振幅に比例した出力を得、入力振幅が一定なら、周波数に比例した出力を得る回路なのです。
 IDC回路の目的は、高い周波数や大振幅入力で周波数偏移を抑えることにありますから、次のリミッタで、微分回路の出力を、ある一定レベルで頭打ちにしてしまいます。これが、Fig.HE0501_bの左側のグラフの茶色の線の位置です。入力の振幅が大きかろうが小さかろうが、はたまた入力の周波数が一定値を超えようが、ある値以上の出力は出てきません。但し、入力振幅が大きい時は低い周波数f1で頭打ちになりますが、振幅が小さい時は高い周波数f2まで頭打ちになりません。
(2) 積分回路の動作
 次は積分回路の働きを見てみましょう。周波数に対しては積分は微分と逆演算です。ですから(お察しの通り)「入力周波数が一定なら、入力振幅に比例した出力」を得るのは微分と同じですが、入力振幅が一定なら、周波数に反比例した出力を得る回路(Fig.HE0501_bの右半分)となります。

[4]IDC回路の総合特性とFM変調後の周波数偏移

 それでは、これら3つの要素を直列に接続した回路の総合特性はどうなるのでしょうか? それを示したのが上図Fig.HE0501_cの左半分です。
Fig.HE0501_c IDC回路の総合特性とFM変調波の周波数特性
Fig.HE0501_c IDC回路の総合特性とFM変調波の周波数特性
 基準レベルの入力(Fig.HE0501_b左の緑の実線)に着目して説明すると、周波数がf0までの入力は、クリップレベルに達していませんから、単に微分して積分しただけで元のレベルに戻ります。これがこの図で書かれた周波数特性が平坦な部分です。
 一方、f0より高い成分は、クリップされた後に積分されますから、周波数が高くなるにつれて出力振幅は減少します。
 ではこのような性質を持った信号をFM変調器に入力すると、入力周波数に対して周波数偏移がどのようになるかを示したのが、Fig.HE0501_cの右半分です。入力周波数がf0より低い間は周波数偏移が入力信号の振幅と周波数に比例し、0より高くなると、リミッタが効いて、周波数はある値以上に偏移しません
 これで、IDC回路の目的が達せられたことになります。

それでは、解答に移ります。
 上記の内容を読めば、問題文の正誤は簡単に判断できると思います。
 …これは振幅変調の音声増幅でのリミッタの働きで、誤りです
 …水晶発振回路の安定化は、恒温槽や緩衝増幅の働きですから誤りです
 …IDC回路の働きの正しい説明です
 …これはALC回路の働きですので、誤りです
となりますので、正解はと分かります。