□ H13年12月期 A-25  Code:[HJ0502] : デジタルマルチメータの構造(ブロック図)と動作原理
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2022年
12/31 12月期問題頁掲載
09/01 08月期問題頁掲載
05/14 04月期問題頁掲載
H1312A25 Counter
無線工学 > 1アマ > H13年12月期 > A-25
A-25 次の記述は、図に示す携帯型デジタルマルチメータ(DMM) の原理的構成における、各部の働きについて述べたものである。[ ]内に入れるべき字句の正しい組合せを下の番号から選べ。
問題図 H1312A25a
Fig.H1312A25a
(1) 入力信号変換部は、測定端子に加えられた被測定量(電気量)を適当な大きさの[A]に変換する。
(2) A−D変換部には一般に、変換速度は遅いが、直線性や精度が優れている[B]型のA−D変換器が用いられ、入力信号はその大きさに比例したデジタル量に変換される。
(3) 表示部において、表示桁数が3-1/2桁(通称「3桁半」)の場合、表示数値の最大値は1999であり、数字のほかに、小数点、単位、[C]なども自動的に表示される。


パルス 二重積分 入力オーバー
パルス 計数 電池消耗
直流電圧 二重積分 負号
直流電圧 計数 最大値

 最近は、「針」式のアナログテスターに代わって、問題のようなデジタルマルチメータ(以下、DMMといいます)が使われるようになりました。変動する信号などは針の方が様子を掴み易いので…と言おうとしたら、私が仕事で使っているものはほぼリアルタイムに反応するバーグラフが数字の表示の下に付いているものもあったりします。

[1]測定対象をすべて直流電圧に変換する

 DMMは、交/直電圧や電流、抵抗など、従来のアナログテスターで測定できたものはすべてデジタル値として測定可能になっています。なので「マルチメータ」なのですが、後に述べるように、アナログ信号をデジタルに変換するA/Dコンバータ(変換器)はほとんどが直流電圧を入力するタイプです。従って、入力に多種多様な信号が入ってくることを考えると、何らかの変換が必要になります。
 ここで、「変換」と言っているのは、交流電圧→直流電圧、直流電流→直流電圧、抵抗→直流電圧など、入力として入ってくるいろいろなソースをすべて直流電圧に変える回路のことです。
Fig.HJ0502_a DMMの入力部分の例
Fig.HJ0502_a
DMMの入力部分の例
 Fig.HJ0502_aにDMMの「ヘッドアンプ」ともいう入力部分の例を描いてみました。
 まず、直流電圧はそのままでも入力できそうですが、A/Dコンバータの入力レンジは数[V]程度で決まっているので、ミリボルトやキロボルトはそのままでは入力できません。増幅するか、電圧分割を入れてバッファするか、が必要になります。
 次は、交流電圧です。直流と同様にレンジをA/Dに合わせることも必要ですが、重要なのは交流を直流に変換(整流)することです。
 この例では増幅した後に半波整流するような絵が描いてありますが、必ずしもこの通りとは限りません。一般にDMMの整流機能は高周波特性が良くないので、特別な仕様でなければ、商用周波数からせいぜい数10 [kHz]どまりです。
 次は直流電流です。電流は、わずかな抵抗(シャント抵抗)の両端に発生する電圧を増幅してA/Dに渡します。ここでは直流しか書いてありませんが、交流電流を測定できるものは、増幅器の後段に、交流電圧と同じく整流回路が設けられます。
 最後は抵抗です。普通、DMMには電池あるいは電源が内蔵されていますから、この電源から抵抗に定電流を流して、両端に発生する電圧を増幅し、A/Dに渡します
 DMMにはロータリースイッチや押しボタンの切り替えスイッチが付いていて、測定モードを切り替えるようになっています。レンジは自動切替のものが多いです。この例では、切り替えた後の信号は、一段緩衝増幅(バッファアンプ)をかませて、A/Dに接続しています。

[2]アナログ−デジタル変換の要…A/Dコンバータ

 さて、DMMのキーパーツと言えば、A/Dコンバータです。A/Dコンバータは、近年、軍用など特殊用途を除いてほぼすべてモノリシック(シリコンのかけら1個)化されており、いろいろな場所で使われています。
 アナログ信号をデジタル値に変換する方法には、それだけで本が書けるほど多様な方法があり、目的とする信号によって、方法が異なります。ここでは、DMMに良く用いられ、直流に近い(=高速に時間変化しない)信号を高精度で変換できる二重積分形、と呼ばれるものの原理をご説明します。
 Fig.HJ0502_bは、二重積分形A/Dコンバータの概略構成です。ちょっと複雑ですが、信号の通る順を追って見て行けばさほど難しくありません。
Fig.HJ0502_b 二重積分形A/Dコンバータの構成
Fig.HJ0502_b
二重積分形A/Dコンバータの構成
 まず、入力信号はオペアンプの記号で示されている「積分器」という回路に入ります。この「積分」は数学の積分ですが、電気回路の積分はあまり難しく考える必要はありません。
 入力は高速に変化しない>ので、ほとんど一定値を取ると考え、そのような信号を時間で積分すると、直線的に増加する一次関数になります(後で波形を調べます)。
 積分された信号は、比較器(コンパレータ)に入り、GNDレベルと比較されます。ここからはロジック(論理)回路の世界です。
 クロック発生回路は、常に一定周波数のクロックを発生しています。クロックは、制御ロジックとゲートに入りますが、制御ロジックは、クロックとコンパレータの入力から、積分器の入力切替(アナログ入力か基準電圧か)を行うのと、パルス計数回路にリセットを出すこと、それに、ゲート(ANDゲート)を開くタイミングを出力します。パルス計数回路は、リセットがかかってから、入ってきたパルスの数を数えます
 と、こう文章で書かれても動作は全く分かりません。そんな時は、Fig.HJ0502_cのようなタイミングチャートが役立ちます。
 まず、話の都合上、スタート時点で積分器のコンデンサに溜まっている電荷はゼロ、すなわち積分器の出力はゼロから始まるとします。ここで、入力のスイッチが基準電圧から入力信号に切り替わった瞬間から話を始めます。
 上にも書いたように、入力電圧の変化は緩やかで、ほとんど一定値V1とみなせるので、積分器の出力は一定の割合で上昇して行きます(区間A1)。
 一定時間t0が経過すると、入力にあるスイッチが基準電圧源に切り替わり、入力と逆極性の定電圧Vrefが加わります。すると、積分器の出力は、符号が逆の積分なので、入力の傾きとは逆の傾きで降下してゆきます(区間B1)。
Fig.HJ0502_c A/Dコンバータのタイミング図
Fig.HJ0502_c
A/Dコンバータのタイミング図
 また、この時間中はゲートが開いており、クロックがパルス計数回路に加わります。
 積分器の出力がゼロにまで降下した瞬間(ここでかかる時間をt1とします)、コンパレータの出力が反転して、制御ロジックはこれをきっかけに、入力のスイッチを再びアナログ入力側に切り替えると同時に、ゲートを閉じ、パルス計数回路の出力を確定した後、リセットします。パルス計数回路では、ゲートが開いていた時間内に出てきたクロック数n1をカウントして、デジタル値として出力します。
 この図を見ると、積分器の出力は、入力の電圧(被測定電圧)を積分している時(区間A1)と、基準電圧を積分している時(区間B1)で、傾きの大きさが違います。
 また、区間A1より低い電圧V2が入力されている時間(区間A2)は、その時間幅t0は制御ロジックが決めている同じt0なので、到達する積分値が低いのが分かります。
 そして、区間B2で降下してゆく傾きは同じですからゼロ電圧に到達するのにかかる時間t2はt1より短くなります。従って、ゲートが開いている間(区間B2)に出てくるクロックの数n2もn1よりは少なくなります。
 このようにして、アナログ電圧が、クロックの数としてデジタル値に変換されるわけです。
 もっと、もっと分かりやすく説明すると…
・単位時間当たりにどれだけの水量V1が出てくるか分からない蛇口と、
・出てきた水をためるバケツと、
・一定水量V0で流し出すことのできるコックと、
・水量がゼロになったことを検知するセンサーと、
・水を流し出している時間を測るデジタル時計と、
・デジタル時計やセンサーをモニタしながら蛇口やコックを制御する部分と、
を備えた装置であって、
・蛇口から水の出るコックを開いて水を溜め、
・時間t0(一定時間)経過したら水を止め、
・流し出しコックを開いて溜まった水を捨て、
・センサーの出力を見ながら、水量がゼロになるまでの時間t1を計測すれば、
・t1の間に刻んだパルス数が蛇口から出てきた水量に比例する
という原理で動作するコンバータ、ということになります(特許の請求項みたいになってしまいましたが)。

[3]二重積分形A/Dコンバータの特徴とDMMへの適用

 二重積分形A/Dコンバータの特徴は箇条書きで説明します。
  • 高精度
    A/Dコンバータの精度の定義はいろいろありますが、二重積分形は分解能が高く、オーディオ用A/Dコンバータ(大体16bit)よりも256倍高い、24bitのものまで使用されています。
  • 低速
    変換周期が数 [Hz]〜10 [kHz]程度と、あまり高速ではありません。また、高速に変化する信号を入力すると、誤差が大きくなります。
  • 安価
    6桁以上も表示できるDMMは別ですが、ハンディテスターに用いられる程度の分解能(12bit)でしたら、比較的安価です。
 このA/DコンバータをDMMに使ったものは、一般的には±0〜1999の表示が得られる、いわゆる3桁半という表示のものが一般的です。表示部には、さまざまな表示がされますが、最低限、単位と小数点と負号(マイナス)は表示されます。特殊な用途を除いて、電池駆動が一般的になっています。

それでは、解答に移ります。
 …入力は何でも直流電圧に変換されます
 …直流なので速度は遅く、精度の取れる二重積分形が用いられます
 …数値の他、単位・小数点・負号が必須の表示です
となりますから、正解はと分かります。
 表示される内容の選択肢には、「入力オーバー」や「電池切れ」、「最大(ピーク)値」なども並んでいて、実際最近のテスターはこの程度の機能は備えたものが多いので、解答に迷いますが、必要最低限の表示ということでは、先に書いたように、単位と小数点と負号です。