□ H13年12月期 A-19  Code:[HH0602] : 半波長ダイポールアンテナの電気的特性(放射抵抗、実効長、利得)
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12/31 12月期問題頁掲載
09/01 08月期問題頁掲載
05/14 04月期問題頁掲載
H1312A19 Counter
無線工学 > 1アマ > H13年12月期 > A-19
A-19 次の記述は、半波長ダイポールアンテナの電気的特性について述べたものである。[ ]内に入れるべき字句の正しい組合せを下の番号から選べ。ただし、波長をλ [m]とする。
 半波長ダイポールアンテナに中央部分から給電したときの放射抵抗は、約[A][Ω]である。また、このアンテナの実効長は[B][m]であり、アンテナ利得は、[C]で表すと2.15 [dB]である。

73 λ/π 絶対利得
73 λ/2π 相対利得
73 λ/π 相対利得
50 λ/π 絶対利得
50 λ/2π 相対利得

 最も基本的な半波長(λ/2)ダイポールアンテナの出題です。このアンテナの理解が、アンテナ全般のマスターの出発点になる、と言ってもいいでしょう。

[1]λ/2ダイポールアンテナの構造と動作

 λ/2ダイポールアンテナは、構造が簡単で手に入りやすい銅線という材料があれば作れるので、アンテナを自作するには最も適しているアンテナです。ここでは、その特性を整理します。

半波長ダイポールアンテナ(Fig.HH0602_a)
項 目 特  性
構造・動作原理 片側約λ/4のエレメントを直線状に展開し、平衡給電する。共振させて用いる
指向性・偏波面 指向性:水平面内=8の字 垂直面内=無指向性
偏波面:銅線の展帳方向に同じ(一般に水平)
インピーダンス 73+j43 [Ω]だが、普通両側を短縮してλ/2より短くし、リアクタンス分(虚数部:j43)をゼロにして使う
利得・実効長(高) 利得2.15 [dBi] 実効長λ/π [m]
電流分布 給電部が電流最大で末端に行くほど正弦的に減少する分布。先端では原理的にゼロ
周波数帯域 共振周波数を中心とする、狭い帯域。
(エレメント径を波長に対して太くすると多少広がる)
特徴・用途等  アマチュアでHFのワイヤー系といえばダイポール。長波長側のバンドではコイルを入れて短縮
 この変形に、インバーテッドV(逆V)アンテナがある。これは、給電点を頂点として逆V形に張ったもの。敷地の狭い所でも張れる。開き角が小さくなるほどインピーダンスは低下、帯域は狭帯域に。他の特性は、ほぼ半波長ダイポールと同様
 ここで、少し解説が必要な用語について説明します。
平衡給電
アンテナの給電端子に、どちらもGNDに対して対称な電圧で給電する方法
指向性
アンテナから、どちらの方向にどれだけ電波が放射されているかを示すもの。垂直面と水平面の指向性がある
偏波面
送信アンテナとして用いた時、十分遠方での電界の振動方向
電流分布
素子上に流れる高周波電流の強度分布
Fig.HH0602_a ダイポールアンテナの構造と特性
Fig.HH0602_a
ダイポールアンテナの構造と特性
周波数帯域
VSWRが実用になる範囲で、周波数を変化させてもアンテナとして使える周波数範囲

 実効長・実効高については、この後説明します。利得については、利得の問題のところで説明しています。
 上記の中で、前提となっているのが、「同じアンテナを送信に使った時と受信に使った時とで、特性は同じ」という原理があります。常識的に考えれば、送信時のビームパターンと受信のそれとで異なることはない、送信の利得と受信の利得が異なることはありえない、ということですが、改めて「本当にそうか?」と問われると、証明の方法が分かりません。
 この問題は、アンテナの問題、というより、電磁気の原理の問題なので、ここでは扱わず「そういうものだ」ということで話を進めます。

[2]アンテナの実効長・実効高とは何か

 これを考える前に、まず、Fig.HH0602_bを見て下さい。アンテナにはその動作状態で、垂直系のアンテナと、水平系のアンテナがありますが、普通、水平系には「実効長」、垂直系には「実効高」という用語を用います。
Fig.HH0602_b 実効長・実効高の考え方
Fig.HH0602_b
実効長・実効高の考え方
 水平系のアンテナを例に取ると、アンテナに給電すると、そのアンテナの特性で決まる電流分布が生じます。これは、通常一様に分布することはなく、場所によって電流が変化しています。例えば、λ/2ダイポールに中央部から給電すれば、電流は給電部で最も強く、末端に行くに従って正弦的に減少します。
 これを、全長に渡って一様な電流が流れている分布、つまりどこを取っても同じ電流が流れている分布だと仮定すると、素子の長さはいくらになるか、という問題です。
 Fig.HH0602_b左の図に描いたように、エレメント長の全域にわたってある電流分布をしているアンテナが、全く一定な分布を持っている仮想的なアンテナと同じとすれば、この仮想的なアンテナの全長はいくらになるか、ということです。
 垂直系のアンテナに関しても、全く考え方は同じです。アンテナの実際の高さと、電波を送受信するのに、実質的に必要な高さが異なることを言っています。
 そんなもの求めて、何の役に立つんだ、と思われるかもしれませんが、実は、ある電界強度の中にこのアンテナを置いた時、アンテナに誘起する電圧が微分も積分も要らず、掛け算だけで出るのです。電界強度の単位は[V/m]なので、実効長[m]または実効高[m]を掛けると、アンテナの誘起電圧 [V]になります。それに、長い(高い)アンテナなのに、実効長/実効高が短い/低いということは、そのアンテナは実際には電波が出ている部分(高周波電流が流れている部分)があまりない、ということが分かります。
 λ/2ダイポールやλ/4垂直接地といったアンテナの実効長・実効高は、電流分布が単純なので、紙と鉛筆で計算できます。λ/2ダイポールがλ/π [m]で、λ/4垂直接地がその半分のλ/2π [m]です。

 これと似た概念に、アンテナの「実効面積」という考え方があります。これは、空間を流れている受信電波のエネルギーをどれだけ受信機に伝達できるかを面積で表したものです。アンテナと受信機のインピーダンス整合までを考慮に入れた、エネルギー伝達の効率とも呼べるものですが、アマチュアでは出題されたのを見たことがありません。

[3]アンテナの相対利得・絶対利得とは何か

 アンテナの利得には、その基準の取り方によって、2種類の表記があります。まず、アンテナの利得の定義を示します。
 アンテナの利得は、以下のように基準となるアンテナと測定するアンテナの電界強度を、波長に比べて十分に離れた距離の地点において測定して決めます。
 ・基準となるアンテナに電力P0を供給して測定した電界強度と、
 ・評価するアンテナにある電力Pdを供給して、
 ・評価するアンテナの最大放射方向において、
 ・電界強度が基準アンテナと同じになるようにした時の電力の比P0/Pd
を利得と定義することになっています。
 要約すれば、利得とは、基準アンテナと供試アンテナがあって、両者の作る電界強度が同じになるための電力の比を言います。
Fig.HH0602_c 利得の基準となるアンテナ
Fig.HH0602_c
利得の基準となるアンテナ
 教科書には、この基準となるアンテナには2種類ある、と書いてあるわけで、一つはこの世に実在しない仮想のアンテナ「アイソトロピック(等方的)アンテナ」と(これは実在する)λ/2ダイポールアンテナです。
 アイソトロピックアンテナは、どの方向にも満遍なく電波を放射すると仮定したアンテナです。そんなこの世に存在しないアンテナを基準にするなんておかしいですが、どの方向にも一様に放射する、ということは電界強度が計算で出せるため、実測しなくてもいい(=実在しなくても構わない)のが特徴です。
 一方、λ/2ダイポールは上で挙げたように、8の字特性を持ちますから、等方的ではなく、アイソトロピックアンテナより高い利得を持ちます。ダイポールの電界強度は、構造がシンプルなのでシミュレータなどでかなり正確に出ます。

 このように、
 ・アイソトロピックアンテナを基準にした利得を絶対利得
 ・λ/2ダイポールを基準にした利得を相対利得

といいます。表記は、絶対利得が[dBi](「でーびーあい」と読むようです)、相対利得が単に[dB](デシベル)又は[dBd](「でーびーでー」と読むようです)ですが、[dBd]はほとんど見たことがありません。
 ところで、アイソトロピックアンテナを基準にして、λ/2ダイポールアンテナを測定すると、利得はいくらになるでしょうか? これも計算で出せて、約 2.15 [dBi](真数では約1.64倍)となります。アンテナのカタログなどで、利得が相対利得で表記されているのか、絶対利得で表記されているのかで、2.15 [dB]の差が出ます。同じアンテナで絶対利得の方が2.15 [dB]大きく見える、ということですが、かなり大きい値です。メーカーによって表記が違うこともありますから、単位を良く見て、勘違いしないようにしましょう。

それでは、解答に移ります。
 …λ/2ダイポールアンテナの放射抵抗は、約73 [Ω]です
 …λ/2ダイポールアンテナの実効長は、λ/π [m]です
 …λ/2ダイポールアンテナの絶対利得は、約 2.15 [dBi]です
となりますから、正解はと分かります。