□ H12年08月期 B-05  Code:[HI0501] : ラジオダクトの発生原理と伝搬の特徴
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2022年
12/31 12月期問題頁掲載
09/01 08月期問題頁掲載
05/14 04月期問題頁掲載
H1208B05 Counter
無線工学 > 1アマ > H12年08月期 > B-05
B-05 次の記述は、ラジオダクトについて述べたものである。[ ]内に入れるべき字句を下の番号から選べ。
標準大気中の電波の屈折率は高さとともに[ア]する。しかし、上層の大気の状態が[イ]で、下層の大気が[ウ]である場合は、この関係が逆転する。その状態の大気の層を[エ]といい、この層はラジオダクトを形成し、[オ]以上の電波を見通し外の遠距離まで伝搬することがある。
減少 高温低湿 電離層 超短波 短波
増大 低温高湿 逆転層 中波 10 不連続線

 超短波帯以上で現れる、ラジオダクトの発生メカニズムの問題です。ダクトの生成は、空気の屈折率分布の異常が原因なので、気候の要素が密接に関係しています。

[1]ラジオダクトの発生要因は、大気の屈折率分布の異常

 通常、気候が安定している時の大気は、上空に行くほど屈折率が単調減少する分布をしています。電波は、屈折率分布によって曲げられながら進むので、この分布が変化すると、伝わる経路が変化します。
 分布が(上空ほど屈折率の低い状態で)安定している時は、水平に発射された電波は地面の方向に向かって、上に凸の曲線を描いて下方に曲がりながら進みますが、後に述べるような気候の変動等により、屈折率分布が逆転すると、下に凸の曲線(上昇曲線)を描くことがあります。
 上に凸で「下向き」に曲げられ、地面で反射を受けたり、下に凸の領域に入って「上向き」に曲げられ…を繰り返すと、まるで電離層や光ファイバの中を電波や光が伝わるように、反射を繰り返しながら遠方まで運んでくれる媒質の働きをします。これがラジオダクトです。

[2]電波の経路の「曲率」を示す修正屈折率

 このことを、もう少し定量的に扱ってみます。バリバリにやるにはプロの国試のレベルが必要ですが、ここではある程度「与えられたもの」として考えます。
 まず、「修正屈折率」N(h)なるものを考えます。これは、大気の屈折率nが高さh方向の分布(通常の大気ではほぼ直線的な単調減少の)n(h)を持っていることと、地球の曲率半径R(=地球の半径)を考慮した屈折率で、
 N(h)≡n(h)+h/R …(1)
と定義します。この値は、1に非常に近くて、意味を持つのは小数点以下の数桁(1は「真空の屈折率」なのでそれとの「差」が重要)なので、(1)から1を引いて百万倍します。つまり、
 M(h)≡{N(h)−1}×106
    ={n(h)+h/R−1}×106 …(2)
 という、「屈折係数」という値を定義します。
 どうしてこんなものを導入するかと言うと、このM(h)の高さ方向の変化率(dM/dh)で電波の経路の曲がり方が分かるからなのです。dM/dhの絶対値が大きいほど、電波の経路の「曲率」が大きく(曲率半径が小さく)なり、曲がりがきついことを意味します。反対に、この絶対値が小さいほど、経路の曲率は小さくなります。
 また、符号によって曲げられる方向も判別でき
 ・dM/dh>0ならば、電波は地表に向かって曲げられ(上に凸)
 ・dM/dh<0ならば、電波は上空に向かって曲げられ(下に凸)
ることが分かります。
 ここで注意が必要なのは、大気の屈折率nは高さhが高くなるほど小さくなりますが、屈折係数Mは、h/Rの項が加わっているため、「静穏な」気象条件下では、高さが高くなるほどMの値は大きくなります
Fig.HI0501_a 大気の屈折率分布の3パターン
Fig.HI0501_a
大気の屈折率分布の3パターン
 では、このMを使って、代表的な3つのケース(Fig.HI0501_a)で大気の状態を考えてみましょう。
 まずはじめに、安定している大気の場合(同図左)です。この場合、高さhの増加に対して、屈折係数Mは単調に増加しています。(Fig.HI0501_aはいずれもhを縦軸に取っているため、通常のグラフの読み方と異なり、dM/dhは縦軸の増加に対する横軸の増加の割合なので注意)
 次に、地表付近に逆転がある場合(同図中)です。上空に行くほど高温、あるいは低湿の空気の層が出現し、この部分ではdM/dh<0となります。この部分を逆転層といいます。
 最後に、地表から少し上までは標準的な分布ながら、途中で逆転層が出現するケース(同図右)です。この場合は、上空でdM/dh<0の「層」ができている形になります。
 この後に述べるように、通常のM分布では電波は地表に向かって曲げられる所を、ダクトの中では上空向きに曲げられるため、この層が地表や、より上層のdM/dh>0の部分に挟まれることで、電波は蛇行しながら遠方まで伝搬して行きます。

[3]電波はダクトの中をどう伝わるか

 まず、逆転層が地表に接しているダクトを、「接地形ダクト」といいます。この場合の電波の伝わり方は、Fig.HI0501_bの上のように、逆転層と大地の間で反射を繰り返しながら伝搬するような形になります。
 まるで電離層に反射する電波のようですが、電離層と異なり、反射が起こる高さは高くて数100 [m]のオーダーで、電離層とは高さ方向の桁が違います。
 次に、逆転層が「宙に浮いている」状態で生じるダクトを、「S形ダクト」と言います。名前の由来は、Mの高さ方向の分布グラフを見ての通り、逆転層が上空にあるため、S字になることからきています。
 この状態で電波がダクトの上部に進むと、上部はMの分布が通常の大気と同様で、上に凸で地表方向に曲げられ、下部に進もうとすると、逆の効果で下に凸で上空方向に曲げられます
Fig.HI0501_b 接地形ダクトとS形ダクトの伝搬
Fig.HI0501_b
接地形ダクトとS形ダクトの伝搬
 こうして、電波はダクトの中を反射しながら伝搬してゆきます。ダクトに電波が閉じ込められてしまっては通信できませんが、そこのところはうまくしたもので、電波が幾分か漏れてくるので、通信できるようになります。
 また、ここで書いた経路は一次元的ですが、二次元的な広がりを持って、複数の経路が存在することもあり、それらが干渉し合い、深いフェージングを伴うことがあります。

[4]逆転層は何故形成される?

 はじめの方で、逆転層は、気象条件により発生する、と書きましたが、より具体的にはどんな時に発生するのでしょうか? 4つの例でまとめてみます。
  • 高気圧による下降気流
     高気圧は上空から地面に吹き付ける空気の流れ(沈降)を作ります。この高気圧が海上にある時、上空では乾燥していた空気が降りてきて、海の水分の蒸発によって湿った空気と出会う場所に逆転層が形成されます。ダクトの形としてはS形になります。
  • 夜間冷却
     昼間、晴れていると地面が太陽光で暖められます。夜になると、暖められた地面は、熱を「放射」して早く冷却(放射冷却)しますが、上空にある空気は地面より比熱が大きいので、なかなか冷えません。すると、地表近くの空気と上空の空気で温度の逆転が生じ、逆転層が形成されます。ダクトの形としては接地形になります。
  • 移流(海陸風)
     海陸風とは俗に「海風」「山風」と呼ばれるものです。海岸地方において、昼間は(比熱の小さな)陸地が暖まる方が早いため、陸地で上昇気流が発生し、風は海から陸に向かって吹きます。夜間はこれと逆で、冷えるのが遅い海上の方に上昇気流が生じるので、風は陸から海に向かって吹きます。これらの風が吹くとき、冷たい空気の上に暖かい空気が乗るので、逆転層が生じます。ダクトの形としては大方が接地形になります。
  • 前線
     前線は、暖かい空気と冷たい空気がぶつかり合うところにできるものですが、冷たい空気の方が重いので、通常は下方に冷たい空気、上方に暖かい空気が乗り、逆転層を生むのですが、通常前線面(寒暖の空気が接している面)では乱流が起こっているため、はっきりした逆転層は現れにくい、という説もあります。

それでは、解答に移ります。
 …標準大気の屈折率は、高さと共に1減少します
 …上層の方が2高温低湿で下層の方が低温高湿だと逆になります
 …上層の方が高温低湿で下層の方が7低温高湿だと逆になります
 …屈折率分布が逆になった層を8逆転層といいます
 …ラジオダクトでは、4超短波以上の電波が伝搬します
となります。