□ H11年04月期 A-05  Code:[HB0101] : 複数の電圧源と抵抗からなる回路網の計算(キルヒホッフの法則)
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12/31 12月期問題頁掲載
09/01 08月期問題頁掲載
05/14 04月期問題頁掲載
H1104A05 Counter
無線工学 > 1アマ > H11年04月期 > A-05
A-05 図に示す回路において、電流I3の値として、正しいものを下の番号から選べ。
1 [A]
2 [A]
3 [A]
4 [A]
5 [A]
問題図 H1104A05a
Fig.H1104A05a

 電圧源が複数あって、簡単な計算では電流値が出てきそうにないので、ここは「キルヒホッフの法則」にお出ましいただくしかなさそうです。

[1]キルヒホッフの法則とは何か

 キルヒホッフの法則は、第1法則と第2法則の2つからなっていて、「言われてみれば、当然か」の内容で、どっちが第1でどっちが第2だったか、なんてあまり関係ありません。が、ここでは一応区別するために「第1」「第2」と分けて書きます。
  • キルヒホッフの第1法則
     回路網の任意の1点に流入する電流の代数和はゼロである…こんな書き方されたら、普通理解できませんよね。でも大学ではこうやって教えてたんです。
     要するに、どういうことか…Fig.HB0101_aで言うと、ノードAに流れ込んでいる電流(I1とI2の合計)と流れ出している電流I3が等しい、ということです。考えてみれば当たり前な話で、電流は電子の流れなので、電子が勝手に消えて無くなったり、銅線の中から湧いて出てきたりせず、「入ってきたものは必ず出て行く」のですから。
  • キルヒホッフの第2法則
     回路網の任意の閉回路において、各部分の電圧降下の代数和はその回路に含まれる起電力の代数和に等しい…とこれもそのままでは何だかよく分かりませんね。
     「回路」というからにはひとつ以上のループ部分があるわけですが、そのループの経路に沿って一周する時、抵抗分(交流回路ではインピーダンスでも成り立つ)によって降下する電圧をすべて足し合わせたものと、電源による起電力をすべて足し合わせたものが等しい、と言っているのです。

[2]キルヒホッフの法則を使った実際の計算

 第1法則は、流れ込む電流の呼び名と向きを決めて方程式を作るだけでよいので、割と式は立てやすいのですが、問題は第2法則です。
 ここでは、第2法則をもう少し図で具体的に説明します。再びFig.HB0101_aのループ1の部分に着目して下さい。ループの方向を緑の矢印の方向に取ります。電圧降下の和は、電流がループの方向と同じ時は+を、逆向きの時は−を取って計算します。すなわち、ループ1について、
 電圧降下の総計=I11+(−I22)
となります。起電力の総計はよく間違えますが、ループの向きに進むと電位が上がるものは+、下がるものは−で計算します。すなわち、
 起電力の総計=(+E1)+(−E2)
Fig.HB0101_a ノードとループの取り方
Fig.HB0101_a
ノードとループの取り方
となります。これももう一段踏み込んで、どういうことなのか考えてみると、
 電圧降下の総計=起電力の総計
なので、「電圧降下の総計」を右辺に移項すれば、
 起電力の総計−電圧降下の総計=0
となります。(再び)要するに、ループをぐるっと廻って一回戻って来ると、電位差は零、すなわち元の電位に戻る、ということです。
 重ねて注意しなければならないのは、ループの向きと電流(電圧降下)の向きや起電力の向きです。これらの取り方によって、符号が反対になりますから、計算が合わなくなります。
 なお、問題によっては、あらかじめ電流の向きが与えられていますが、そうでない時は自分で電流の向きを「適当に」決めてやります。もし、方程式を解いた結果、電流の値がマイナスになった場合は、最初に決めた電流の方向と、物理で決まる電流の方向が逆だった、ということになります。

[3]「重ねの理」も使える

 ここで、少し高級(でも簡単)な解き方を追加します。キルヒホッフだけでも問題は解けますが、電圧源や抵抗の数が少ない場合など、別の方法で解いた方が簡単な場合もあるので、それを紹介します。
 この解き方のベースになっている回路定理を、重ねの理、と言います。ここでは定理の証明などは行ないません。
 この方法は、理想電源を複数含む回路網の場合についてのもので、実際に計算する場合の手順は、
 (1) 電圧源(電流源)を一つ残し、
 (2) 残りの電圧源(電流源)は全て短絡(開放)として回路を解き、
 (3) これを順に残りの電圧源(電流源)について行い、
 (4) 最後に各枝の電流を全て加算する
という方法です。これではどう計算していいのか全く分かりませんので、上のFig.HB0101_cで考えてみます。
 まずこの回路は電圧源(電池の記号)が2つですから、(1)と(2)の手順を2回繰り返します。まず、E1を残して、E2をショートしたと考えて、I11、I12、I13(各々Fig.HB0101_c中のI1、I2、I3に相当)を求めます。
 次に、E2を残して、E1をショートしたと考えて、I21、I22、I23を求めます。
 あとは、
 I1=I11+I21 …(1)
 I2=I12+I22 …(2)
 I3=I13+I23 …(3)
で、各部の電流が求められます。電圧源やノードがこれより多い回路でも、方法は同じです。
 一見、手数が多くてキルヒホッフより面倒な気もしますが、一つを残して電圧源をショートしてしまえば、ほとんどの場合は合成抵抗の問題に帰着できますので、電圧と電流の両方の向きと符号の対応を間違えないように、方程式を立てなければならないキルヒホッフよりは楽です。
 ただ、この方法でも、電流の向きと符号は間違いのないように注意して下さい。また、ダイオード等の「非線形素子」(電流と電圧が比例しない)が入っていると、重ねの理は成立しません。

[4]電源の向きに注意

 起電力は電池の記号になっていますが、本当はこれは「電圧源」と考えます。方程式を解いていくと、電池に電流が流れ込むことになるケースがあります(1アマでは出ないようですが)。現実にある電池に(起電力とは逆方向の)電流が流れ込むと「充電」になってしまい、答えが合っているのか悩んでしまいますが、「電圧源」であれば、起電力の向きだけがあって内部抵抗がゼロという「物理モデル」であって、逆方向の電流も流せるからです。

それでは、解答に移ります。
 まず、ノードAに第1法則を適用してみます。
 I1+I2+(−I3)=0 …(a)
次に、第2法則をループ1とループ2に適用します。
 I11+(−I22)=(+E1)+(−E2) …(b)
 I22+I33=E2 …(c)
 変数が3つで方程式が3本ですから大概は解けるはずで、ガチャガチャ計算して行くと、
 I3=(E12+E21)/(R12+R23+R31) …(d)
となり、E1=10 [V]、E2=6 [V]、R1=2 [Ω]、R2=2 [Ω]、R3=1 [Ω]を代入すると、3=4 [A]となるので、正解はであることが分かります。
 なお、ここでは一般的な解法を示すために、最後まで値を代入しませんでしたが、計算を楽にするためには、方程式(a)〜(c)を立てた時にE1、E2、R1〜3を代入してしまうのもいいでしょう。

 ここからは余談です。
 実はこの問題、「キルヒホッフの法則」なんて名前を覚えなくても、回路の基本さえ分かっていれば解けてしまいます。
 まず、(a)式は電子が蒸発したり湧いてきたりしないので、これは考えつくでしょう。
 次に、(b)と(c)式ですが、これは何だか電流の方向やループの方向と符号の関係といった面倒なことがあって、間違えてしまうかもしれません。そこで、こう考えてみます。
 ・ノードBを基準電位(GND)にとる
 ・Bから分かれた3本の経路についてノードAの電位を求める
 ・ノードAは3本が全て「繋がっている」のだからそれらが全て等しいと置く
ノードAの電位をV [V]として、3本の枝について式にしてみると、
 E1−I11=V …(1)
 E2−I22=V …(2)
 E3−I33=V …(3)
電流の向きはここでも最初に「適当に」決めて下さい。(1)=(2)と置いて、
 E1−I11=E2−I22
 ∴ I11−I22=E1−E2
となり、何とこれは(b)式そのものです。一方、(2)=(3)と置けば、
 I22+I33=E2
となって、これも(c)式そのものです。後の解き方は上と同じで、ガチャガチャやるしかありません。スマートにやりたい方は行列式で解いてみてください。

 結局、キルヒホッフの法則で立てたときの考え方も、上で示したノードの電位で考えるやり方も、同じ物理現象を違った側面から見ているだけの話だ、ということです。
 電気屋の考え方としては、ここで示した方が簡単で、符号を間違えることはまずありませんから、お薦めです。但し、この方法はこの問題のようにノードが2で「枝」の数が3と少ないものにはいいのですが、多くなってくると、どちらでやっても変わらない気がします。